氷菓
□お人よし 奉太郎
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「そうなんだ…。
因みに折木君の地学の教科書はどこにあるの?」
私の質問に、折木君は気まずそうに「…教室。」と短く答えた。
「じゃあ、私の教科書を使ってください。」
私は手に持っていた教科書を、折木君の前に差し出した。
「えっ……いや、お前……、失礼、苗字さんはわざわざそれを取りに来たんだろ?」
「そうなんですけど…
折木君は、教室まで教科書を取りに行く気がなさそうなので…
このままじゃ、赤点ですよ?」
「うぐっ……。
しかし…苗字さんはそれをやって、何かメリットがあるのか?」
私は折木君の言葉に、呆然としてしまった。
だって……
「クラスメイトだから…じゃダメですか?
メリットとか、そんなの考えるのも面倒じゃありませんか?」
面倒事が嫌いそうな折木君に、笑顔でそう言うと、渋々彼は頷いた。
「スマン…じゃあ、借りるな。」
そしてやっと折木君は、私の教科書を受け取った。
「俺の教科書は机の中だ。」
「わかった。じゃあ、私も借りるね。」
未だに微妙な表情の折木君を見てると、つい笑みが零れてしまった。
すると、折木君はムッとした表情になっていた。
何だかその表情が普段の彼とは違って、年相応に見えて微笑ましかった。
「それじゃ、折木君、また明日。」
いつの間にか標準装備の敬語がなくなっていた。
明日からは折木君に挨拶できるといいなぁ…。と思いながら、地学講義室を出て、教室に向かった。
「……苗字さんか…。」
省エネ少年とお人よし少女