氷菓

□お正月(番外編)
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『よし…。』

まだ少し薄暗い朝。
寒さに耐えながら早起きをして身仕度を整える。

えるちゃんからの電話で、一緒に初詣に行くことになった。何でも、その神社で摩耶花ちゃんが巫女さんとして働いてるらしく、初詣も兼ねて会いに行こうということらしい。
私は特に予定も無かったので、二つ返事で首肯した。
「では、折木さんにもご連絡しておきますね。」
その言葉を聞いて胸の辺りがキュッとして、心拍数が上がった気がした。
その後、何と言って電話を切ったが覚えていないぐらい上の空で、とにかくせめて見苦しくない格好をしていこうと、妙な緊張感で一杯だった。


そんなことがあって、普段着慣れない着物をお母さんに出してもらって、着付けまでしてもらった。
あいにく、自分で着付けるなんて能力は持ち合わせていないので、致し方ない。


神社までは歩いて…しかも着物で早朝から行くには、少々大変な距離だったので、車で送ってもらった。

神社の前で下ろしてもらうと、すぐにえるちゃんと折木君を発見できた。
何たって、えるちゃんの着物姿に1番に目を引かれたから。
見事に着こなしているえるちゃんと対称的に、まさに着せられている感いっぱいの私とでは、天と地ほどの差を見せつけられたような気がして、急に恥ずかしくなってしまった。


「名前さん、明けましておめでとうございます。」


2人に合流するとえるちゃんが深々とお辞儀をして、恒例の新年の挨拶をしたので、私もそれに倣って深々とお辞儀をした。


『明けましておめでとう、えるちゃん。
折木君も、明けましておめでとう。』


「あ、あぁ…おめでとう…。」


折木君の方を見てそう言うと、折木君はボーッとしていたのか、我に返った様子でペコリと頭を下げた。

その後すぐに目を逸らされてしまって、少し残念な気持ちだった。


「名前さん、お着物がとてもお似合いですね。」


『そうかな…?
普段あまり着ないから、自分じゃ違和感あるよ。
…でも…ありがとう。
えるちゃんは着慣れてる感じがするよ。』


最初は複雑な気持ちだったけど、やっぱり褒められると嬉しい訳で、自然と笑えた気がした。
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