氷菓
□反則な彼女 奉太郎
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折木奉太郎は不機嫌だった。
つい先刻までの彼は、上機嫌という訳でも不機嫌という訳でもなかった。
どちらかと問われれば、最愛の彼女をクラスまで迎えに行く所であったので、上機嫌だと言えよう。
しかし、現在の折木奉太郎は不機嫌になっていた。
そんな彼の視線の先には楽しげに談笑している、自分の旧友である福部里志と、恋人である苗字名前であった。
談笑と呼ぶにはいささか、里志が一方的に話しているように思われるが、それを楽しげに微笑みながら聞いている彼女が、こちらに気づいていないのもまた気に入らなかった。
(普段は俺以外の男子とはほとんど喋れないのにな…。)
実質、名前は里志に対して口を聞いていないのだが。
しかしながら、名前が里志とコミュニケーションを取れるようになったのは事実で、それには自分が影響していることも、奉太郎自身は理解していた。
だが……
(里志にあまり見せたくないんだが…。)
欲を言えば、名前の笑っている顔など、里志に限らず他の男子にだって見せてほしくない。
しかし、それは実現不可能なことだ。
(とりあえず、さっさとあの会話を中断しないとな。)
そこで奉太郎がまさに彼女を呼ぼうとした時、名前は奉太郎に気づくと、頬を朱に染めながらも満面の笑みを浮かべた。
(だから見せたくないんだ…。)
彼女のあの笑顔は反則だと常日頃から思っている。
しかし、自分以外に彼女をあの笑顔にできる人間はいないのだという優越感で、先程までの嫉妬心なんかはまさに雲散霧消といった所だった。