黒子のバスケ

□…なんてね 氷室辰也
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『ほら敦、またお菓子零してる…。』


幼なじみの敦がいつものようにお菓子を食べながら歩くもんだから、体育館の床に屑が零れていく。


「大丈夫、大丈夫〜。
名前ちんが掃除してくれるから。」


『って私か!
自分でやってよ、自分で!』


そう言いながらも、敦が自分でやらないことぐらいわかってるから、最終的には私が掃除するんだよね…。


『はぁ…。』


「いつも大変そうだね。」


『あ、氷室先輩。』


大きな溜め息をつくと、後ろには氷室先輩がいた。


『敦は何度言っても聞かないので、困ってるんです…。

氷室先輩からも、敦に言ってもらえませんか?』


「うーん…俺も注意はしてるんだけどね…。
返事はしてくれるけど…片付けは…ね…。」


苦笑を浮かべる氷室先輩からは、私と同じような匂いがした。
いや、実際に匂う訳じゃないけど…。


『でも、敦は氷室先輩の言うことは聞くので羨ましいです。
私には返事もしてくれないのに…。』


そうだよ、敦は私がやればいいなんて言うけど、氷室先輩にはそんなこと言わないし…。


「俺は敦が羨ましいかな。」


私が思考に耽っていたら、氷室先輩が徐にそう言った。


『羨ましい…ですか…?』


確かにあの高身長はバスケをやっているなら羨ましいけど…氷室先輩だってそんな低い訳でも……あ、私と比べればバスケ部はみんな高いか。


『敦ほど高くなくても、氷室先輩は十分高いと思いますよ。』


私がそう言うと、氷室先輩は前髪で隠れていない目を少し大きくした後、眉間に少し皺を寄せて苦笑していた。


「敦の身長が羨ましいんじゃないよ。」


そう言った氷室先輩にじゃあ、何が羨ましいんですか?と聞くと、いつもの綺麗な微笑みを浮かべたまま、私との距離を縮めてきた。

…って……え……?


氷室先輩は私の頭を撫でると、耳元で囁いた。


「名前ちゃんに構ってもらえる敦が羨ましいな…なんてね。」


氷室先輩はすぐに練習へ戻ってしまったけど、私の頭は暫く停止したままだった。




「室ちん、名前ちんに何て言ったの?」


「さあ、何だろうね。」





――――――――――
室ちんに「…なんてね。」って言わせてたかっただけなんです…はい。
 

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