氷菓(原作沿い)

□6.文集探しの旅
2ページ/6ページ

「…くちゅっ!」


可愛い声が聞こえたと思ったら、えるちゃんがくしゃみをしたみたいだ。


『えるちゃん、風邪…?』


「はい。…最近夏風邪気味で。」


「風邪はひどいのか?」


「ご心配には及びません。
くしゃみが止まらないのと、鼻が息苦しいぐらいで……くしゅっ!」


くしゃみが可愛いというのはなかなか羨ましいなぁ…。
くしゃみら意図して可愛いくはならないから…。


『鼻が息苦しいんだったら、えるちゃんお得意の嗅覚が使えないね…。』


先日の図書室での一件で、えるちゃんの人並み外れた嗅覚には驚かされた。


「折木、鍵は持ってるの?」


先を歩いていた摩耶花ちゃんが、こちらに振り向いた。


「いや、貸し出し中だった。」


「くしゅ!……貸し出し中ですか。
じゃあ、どこかの部活が生物講義室を使っているということでしょうか。」


「間抜けな誰かが借りっ放しじゃなければ、そうかもしれんな。」


「間抜けなんて……。
折木さん、口が過ぎますよ。」


『…えるちゃん、お母さんみたい。』


私がクスクスと笑っていると、折木君も苦笑していた。

そして首を振っていた折木君の視線が一点で止まった。

その先は壁だった。
いや、壁というより、壁際に置かれた小さな箱だった。


廊下の壁と同じ白色で、普通に通っていたら気づかなかっただろう。


『何だろうね、これ。』


「さあな…。
反対側にも同じ物があるが…まあ、落とし物だろう。
特別貴重品でもなさそうだからな。」


そう言って折木君は、再び歩き始めた。


『えっ…気にならないの?』


そう言うと、折木君は真剣な顔で言った。


「いいか、苗字。
一円以下の価値のものを拾うために身を屈めても、必要なエネルギー消費は一円を上回ってしまうというのは、省エネ者の間の常識だ。」


聞いた瞬間、唖然としてしまった。


さすが…省エネ主義は伊達じゃないんだ。


『折木君って…変な人だね。』


「苗字までそんなことを言うのはやめてくれ。」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ