氷菓(原作沿い)

□4.愛なき愛読書の話
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「あら?」


「どうした?」


えるちゃんの漏らした声に、折木君は反応して一緒に覗き込んだ。


「要するに、毎週違う人間が借りているってことか。」


「それだけじゃないよ。」


私は日付の部分を指で示した。


「毎週、金曜日に貸し出されてるよ。
しかも、貸出日と返却日が同じだから、本を借りたその日のうちに返してることになるよね。」


私は人差し指で貸出日と返却日を交互に示した。


「そうなのよ。
以下同文で、五週連続。
借りた時間もわかってるわ。
五人とも昼休みよ?
昼休みに借りて放課後に返してるんだから、読むどころか眺める時間もないでしょうに」


「……………。」


「どうだい、気になるだろう。」


えるちゃんは摩耶花ちゃんに本を返すと、福部君を見てゆっくりと頷いた。


「ええ。
……私、気になります。」


普段より語気の強い声。

瞳もいつもより大きく見開かれているように思える。


「どうしてでしょう。」


「どうしてだと思います、折木さん。」


えるちゃんは、再び折木君のペーパーバックの上に『神山高校五十年の歩み』を被せていた。


「お、俺?」


戸惑っている折木君には申し訳ないけど、私も真相が気になってきた。


「ちょっと考えてみましょう。」


「……………。」


「折木君、少しだけでいいから。」


溜まらず、えるちゃんに続く形で頼み入る。


すると折木君は、諦めた様子で口を開いた。


「……そうだな、面白い。
少し考えてみるか。」



その言葉で、私のワクワクは急上昇したみたいだった。



「ふくちゃん、折木って頭良かったっけ?」


「あんまり。でも、こういう役に立たないことだと時々役に立つんだ。」


……なかなか言いたい放題だなぁと思い、折木君を盗み見れば、既に考え始めていた。
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