氷菓(原作沿い)
□4.愛なき愛読書の話
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「私が当番で金曜放課後にここに来るとね、毎週同じ本が返却されてるのよ。
今日で五週連続。
これだけでも変な話でしょ?」
摩耶花ちゃんが説明している間にも、折木君は椅子に座ってペーパーバックを読み始めてしまった。
「人気のある本なんですね。」
「これが、そう見えるの?」
「わあ、綺麗な本……」
表紙は革張りで、細密な飾り模様が施されている。
すごく雰囲気があるなぁ…。
本の題名は「神山高校五十年の歩み」だ。
「ちょっと中を見ていいですか?」
「どうぞ。」
えるちゃんは本を受け取ると、折木君が開いていたペーパーバックの上に、覆いかぶさるようにして差し出した。
折木君は諦めた様子で、本に視線を落とした。
私も一緒に見せてもらったが、細かい文字の羅列で目が痛くなりそうだった。
これを読み切るには、相当時間がかかりそうだ。
「ホータロー、今『これを毎週借りるやつがいてもおかしくない』」とか思っただろう」
福部君が得意げに言うと、折木君は何も反論しなかった。
「そんな簡単な話なわけがないじゃない。
あんたここで本借りたことないでしょ?
いい、教えてあげるからよく聞きなさい。
うちの図書室の貸し出し期間は二週間なの。
だから、毎週借りる必要はないのよ。」
「なのに、この本は毎週返却されてるんだってさ。」
摩耶花ちゃんが、胸を張って言うと、それに合わせて福部君も肩を竦めた。
「誰が借りたかはわかるんですか?」
えるちゃんの質問に摩耶花ちゃんが頷く。
「もちろん。裏表紙の裏に貸し出しリストがあるから、見てみて。」
言われるままにえるちゃんはリストを見た。
私もそれを横から覗き込んだ。