氷菓(原作沿い)

□2.走り出した青春
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バタン…!


沈黙だった空間に、本が閉じられる音がした。


自然とそちらに目を向けると、えるちゃんがいた。


「不毛です。」


唐突なその言葉に、一体何を指しているのかわからなかった。


「一年に二回植えるやつか?」


「それは二毛作です。」


目の前でコントの様な会話が行われた。


「同じ作物を植えると二期作と呼ばれます。」


『そうなんだぁ…。』


「さすが農家の娘だな。」


そう言えば、えるちゃんのお家は農家だったな…。


「褒めていただくほどのことでは……。」


そこで再び沈黙となり、雨音が耳に届く。


「いえ、そうじゃなくてですね。」


危うく流されかけたえるちゃん。
なるほど、折木君の狙いはこれか。


「不毛なのか。」


「そうです。不毛です。」


「何が?」


溜まらず聞いてみると、えるちゃんは私を見た後、折木君をじっと見て、右手で教室全体を示した。


「この放課後がです。
目的なき日々は生産的じゃありません。」


まるで授業中のえるちゃんの様で、つい呆気に取られていた。


でも折木君は全く動じることなく、ペーパーバックは開いたままだ。


「お説ごもっとも。で、お前はなにかこの古典部に求めるものがあるとでも?」


「わたしですか。」


えるちゃんが古典部に求めるもの…少し気になった。


「あります。」


「ほう。」


如何にも意外そうな表情の折木君。


「でもそれは一身上の都合です。」


『一身上の都合って…。』


えるちゃんの言い回しが面白くて笑っていたら、折木君と目が合った。


何となく、「こいつを何とかしてくれ。」と意思が感じ取られた。

だが、エンジンのかかったえるちゃんを止めることはできない。


私は苦笑するしかなかった。


折木君も感じ取ってくれたらしく、肩を竦めていた。


第一印象よりも、感情豊かそうな人だった。
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