氷菓(原作沿い)

□2.走り出した青春
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「さあ、名前さん。
行きましょう!」


放課後になった途端に、生き生きとしたえるちゃんに手を引かれた。

あれよあれよと言う間に特別棟の四階…つまり地学講義室の前に立っていた。


「ここが古典部の部室なんですよ。」


笑顔で説明してくれたえるちゃんと、地学講義室と書かれたプレートを見比べる。


こんな辺境の教室ということは、あまり有名な部活動ではないのだろう…。

えるちゃんも含めて、3人もこの古典部の存在を知っていたのかと、驚きだった。


ガラッ…


私がボーッとしている隙に、えるちゃんが地学講義室のドアを開けていた様だ。


「こんにちは、折木さん。」


折木さんとは誰なんだろう?

というか、僅か3人という部員の内1人は来ているみたいだ。

えるちゃんが入った後、「どうぞ。」と勧めてもらったので、私も教室に入った。


すると、えるちゃんの言った折木さんと目が合い、軽く会釈をした。


人見知りという訳ではないけれど、やはり初対面だと緊張してしまう。


「折木さん、こちら1年A組の苗字名前さんです。
今日は古典部を見学したいとのことでしたので、来ていただきました。」


えるちゃんが、上品に手をこちらに向けて紹介した。


『苗字名前です。
えっと…よろしくお願いします…。』


次は深くお辞儀をした。


「…っと…1年B組の折木奉太郎だ。

見学は自由にしてもらって構わない。

ただ、特に何もしていないから、見学になるかわからんがな…。」


そう言って、折木君は手に持っていたペーパーブックに意識を戻した。






「……………。」


気づけば2人共、本を読んでいたので私もそれに倣って読書中なのだが…。


「……………。」


ペラ……


「……………。」


ペラ……


…ページをくる音と、小雨の雨音しかしない…。


まぁ、古典部と言うからには、文学作品を読むというこの活動は、理にかなっているけれど…何て言うのか…部活らしさがない。


別に沈黙が苦手ではないので、一度窓の外の曇天を眺めた後、私も読書に集中することにした。
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