氷菓(原作沿い)
□17.古典部温泉旅行
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窓から見えるのは緑。
だけどいつも見慣れた田畑の緑とは違って深みをました…山の緑。
私は路線バスに揺られながら、窓の外の風景をぼんやり見ていた。
私を含めた古典部は、温泉旅行に向かっている。
えるちゃんと摩耶花ちゃんが二人で座る後ろに折木君と福部君が座っている。
私はと言うと、えるちゃんたちと座りたかったけど、座席は2人ずつ…かと言ってこの歳になって補助席に座る勇気はないので、えるちゃんたちと折木君たちの間の座席に1人で座るという妙な形になってしまった。
私は折木君たちの後ろでも良かったんだけど、摩耶花ちゃんからお喋りがしたいと言われてしまえば、断ることなんてできない訳で。
後ろで福部君が昨日のテレビ番組の話をしている。
それに対しての折木君の返答が気に入らなかったのか、摩耶花ちゃんが膝立ちで後ろを向いて折木君はロマンがないと呆れながら言っている。
私の頭上でこうして会話が成り立っているのが、何だか不思議な感じがした。
「まあ、今日はおばけに登場してほしい気もするけどね。」
福部君の言葉にハッとして息を短く吸った。
摩耶花ちゃんたちは気づいていないみたいで少し安心。
別にお化け屋敷は入れるけど、それは人工とわかっているからであって…もし本物が出たら…
『あっ、お菓子…持ってきたんだけど…良かったら…!』
つい想像しそうになったので、今日のためにと持ってきていたお菓子で紛らわすことにした。
『折木君もどうぞ…。』
「あ、悪いな、苗字。」
何となく顔色が良くないように見えたけど、折木君はすぐに窓の外に視線を移したからよくわからなかった。