氷菓(原作沿い)

□15.臆病者の見解
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いつもよりも歩く速度が心なしか速いことを感じながら、気づけば学校に着いていた。

しかし、部室の扉を開けてもそこに折木君の姿が見えず、首を傾げていたら横から当人の声が聞こえた。


「苗字…早かったな。」


『うん…凄く気になっちゃって…。』


「まるで千反田2号だな。」


『フフッ…2号って…。
そう言えば、折木君はどこに行ってたの?』


折木君が来た方向の先に目を向ける。
そこには下に続く階段しかなくて、具体的に彼がどこに行っていたのかはわからなかった。


「それはまた後でな。
みんなが集まったらどうせ行くつもりだ。」


『そっか…。』


「ところで…入らないのか、部室。」


『あ…。』


そこで漸く、まだ部室の前にいたことに気づいて、苦笑いのまま折木君と向かい合う形で椅子に座った。


「苗字が気になっていたことは何だったんだ?」


どう切り出そうか考えていたら、折木君の方から話を振ってくれた。


『1番最初に違和感を感じたのは、氷菓を読んだ時かな。
あの『あれは英雄譚などではなかった』って文を、あの時は書き手の心証ってことで、考慮しなかったでしょ?

確かにあの一文は書き手の心証で、論理的に読み解く上では省くべき内容だけど…』


『逆にあの文は書き手が最も伝えたかったことじゃないか、って思った。』


「じゃあ、苗字はあの文の意味をどう取ったんだ?
里志の言うように泥臭いものだった、なんていう受け取り方もあるが、」


私はそこで一旦一息ついた。
ここから先は私の勝手な想像だ。
折木君もそれをわかって聞いている。


『英雄…なんて言われると、周りから誉め称えられて、その人自身も嬉しいものだと思うの。
でも、折木君の仮説が正しいなら…きっと関谷さんは喜んで学校を去った訳じゃないと思う。』


「…………。」


『同級生たちと一緒に高校生活を楽しんで、卒業したかったと思う。
そんな、文化祭なんかで一生に一度の高校生活を棒に振ることなんて、私だったら絶対にできない。

もし、そんな自分の薔薇色の高校生活を犠牲にしなくちゃいけない状況になったら私は……』


鼻の奥がツンとして、目に涙が溜まってきた。


まだ…まだ泣くな…落ちないで…。


『ッ…笑って学校なんか…去れないよ…。』
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