氷菓(原作沿い)

□12.寸鉄少女の見解
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「これだよ、これ。『斗争』」


折木君が指し示した文字は、私の思っていたものと同じだった。

しかし福部君は、そのコピーを見ることなく答えた。


「それはトウソウって読むんだ。
闘う、争うの闘争。
一斗缶の斗は略字だよ。」


『そうなんだ…。』


私はへぇ…。と驚きながら、やっぱり福部君には知らないことはないんじゃないかと再認識した。


「俺だって15年漢字に付き合ってきたが、こんな略字は見たことないぜ。」


「当然さ。これもファッションだからね。
斗の字はそれこそ30年ぐらい前、こういう文章がよく書かれていた頃に流行った略字なんだ。
まあ、今でもたまに見かけるし、やくざ屋さんも使うみたいだけどね。」


『なるほど…。』


福部君の博識には驚かされてばかりだ。
ふと隣の摩耶花ちゃんと目が合って、略字だったんだね。とお互い小さく笑い合った。


「…でも、この文集。
これは、紛い物みたいな気がする。」


福部君がぽつりと呟いた言葉に、隣の摩耶花ちゃんの空気が変わった。


「紛い物?どういうこと?」


刺があるように感じられる摩耶花ちゃんの言葉に、福部君は珍しく困った表情だった。


「いや、この資料が贋物ってわけじゃないよ。」


「当たり前じゃない。
第一、こんな文集に本物も贋物もあるの?」


「資料そのものがじゃないよ。
うぅん、なんて言ったらいいんだろうなあ。
つまり、この文を書いた人は、本物の活動家じゃなかった。
大学やなんかの華々しい運動を見て、それに憧れてこんな字を書いた。
そんな気がするんだ。作り物めいてるよ、これは…」


福部君の言葉が引っ掛かったけど、何を言いたかったのかわからなかった。


福部君は今のは独り言だと纏めてしまい、えるちゃんに先に進めるように促した。


「では、他に質問はありませんか?」
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