氷菓(原作沿い)
□10.密かな心遣い
1ページ/4ページ
夏休みに入った七月末。
風邪を引いたあの日から、結局学校に復帰したのは終業式の日だった。
思いの外悪かったみたいだ。
と言うより、折木君の忠告に反して、部屋の掃除や休んでた分の課題とか色々やってたら、本当にぶり返してしまった。
このことは折木君には言えないな…。
ふぅ…と溜め息をついて、バスに揺られながら窓の外を見た。
今日はついに、古典部がえるちゃんの家に集まる日なのだ。
結局、何をするのか知らないままだったけど、文集に関することなのは間違いないだろう。
今度は折木君の忠告に従って、バスでえるちゃんの家へと向かっている。
簡単な交通アクセスと道を教えてもらったので、多分大丈夫だ……多分。
何とか文字通り右往左往しながらも、えるちゃんの家に着いた。
……………何と言うか……さすが豪農千反田家…って感じだ。
広大な田圃の中に生垣に囲まれた、大きな日本家屋と門があった。
福部君が言っていた通りの外装なので、多分間違いないと思う。
門をくぐって飛び石の上を通って玄関までたどり着く。
そこで千反田という表札の存在に気づいて一安心した。
そして来客用のベルを鳴らす。
「……はぁい。」
えるちゃんらしき声が聞こえたと思うと、やはり戸を引いたのはえるちゃんだった。
「あ、名前さん!
お待ちしていました。」
えるちゃんは若草色のワンピースを着ていて、とても可愛いかった。
「道、わかりましたか?」
『あ、うん…えるちゃんから聞いた通りに来たからわかったよ。
それに、この家は目立つから。』
豪農と呼ばれるだけあって、周りを田圃に囲まれているえるちゃんの家は、目立つのですぐにわかった。
やがて案内された部屋には、すでに私を除く古典部メンバーが全員揃っていた。