氷菓(原作沿い)
□9.気になる二人
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えるちゃんは、教壇に置かれた文集を見ていた。
その視線の先の文集は開かれることなく、えるちゃんはただ、その表紙を一心に見つめていた。
「どうした、千反田。」
折木君が呼びかけても聞こえていないみたいで、私はえるちゃんの元まで行って肩を叩いた。
『えるちゃん、何かあったの?』
「あ、名前さん…。
……これを、見てください。」
えるちゃんはその手に持った文集をこちらに差し出した。
その表紙には独特な水墨画調の絵が描かれていて、犬と兎みたいだった。
たくさんの兎が輪になって、その輪の中で一匹の犬と兎が噛み合っていた。
デフォルメされているため、そんなにリアルな訳じゃないのに、それを見ていると不気味な感じがして、心がどうにも落ち着かなかった。
そしてその絵の上には『氷菓 第二号』の文字があった。
発行は1968年と、なかなか古かった。
しかしそれ以上に私の興味を引いたのはその言葉そのものだった。
『ひょうか…』
これが題名なんだろうか?
氷菓ってあれだよね…アイスクリームのことだよね?
よくアイスの袋に商品名として書いてある姿が思い出された。
「変な題名だな。」
「そうね。よくわからない名前だわ。」
私の肩越し折木君と摩耶花ちゃんが、覗き込んできた。
『古典部の文集に氷菓って…どういうことなんだろう…?』
「さあな、俺には何の関連も見出だせない。
漫研の伊原としてはどうだ、この表紙。」
私が摩耶花ちゃんに氷菓を手渡すと、そこから目を離すことなく言った。
「上手いわよ。
基本的なデッサンとか遠近法とかは完全に無視してるけど、上手いと思う。
……ううん、上手いんじゃない。私が好きなのね。」
摩耶花ちゃんは氷菓を私に返すと、まだ納得いかないのか、色々と自己解析していた。