氷菓(原作沿い)
□7.解かれた文集の封印
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「お前、お前は、俺を…」
「先輩を?」
折木君は遠垣内先輩の視線に対してもどこ吹く風で、意外と図太い神経なんだなぁと思った。
遠垣内先輩はぐっと言葉を飲み込んだ。
そして一息つくと、再び愛想のよい顔になった。
「わかった、見つかったらそうしておくよ。」
「お願いします。
……さ、行こうか、千反田、伊原。」
「ちょっと折木。」
「折木さん、今のは…」
折木君と遠垣内先輩の会話が理解できず、ぽかんとしているえるちゃんと摩耶花ちゃんを折木君が促した。
予め聞いていた私は、会話を理解できていると判断したのか、折木君は目で促していた。
いや、私もわかってないです…。
折木君の言うカマが何だったのかを探るため、会話を思い出そうとした。
「ほら、苗字も行くぞ。」
しかし、それは折木君の手によって中断された。
いや…、手って言うのは文字通りな意味で……気づけば、折木君は自然と私の手を引いていた。
…って…えっ……手が…。
思考に耽っていたからって、まさか手を握られるとは思っていなくて、私の頭は混乱していた。
「話は後だ。」
先に生物講義室を出ていた二人に、そう言っている折木君をボーっとしながら見ていた。
「一年生。お前の名前は聞いてなかったな。」
「折木奉太郎。……悪いとは思ってますよ。」
そう言えば、私も聞かれてないなぁ…と霞みがかった思考の端で、そんなことを思った。
廊下に出た所で、折木君が急に慌て出すと、手を離して「すまん。」と小声で謝ったことで、私の頭も正常に作動し始めた。
「いえ、あの…こちらこそ…。」
そっとえるちゃんたちの方を見遣ったが、二人ともこちらに気づいていないみたいで安心した。