氷菓(原作沿い)

□6.文集探しの旅
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「こんにちは。
私たちは古典部で、私は部長の千反田えるです。
三年E組の遠垣内先輩、ですね。」


「どうして俺の名前を?」


私も思った。


「去年、万人橋さんのお宅でお姿を見掛けていたものですから。」


「万人橋の家で……。
待てよ、千反田といったね。
もしかして神田の千反田さん?」


「はい。父がお世話になっています。」


……す、すごい…っ!

旧家とは聞いていたけど、こんなに顔が広いなんて。


「ああ、いや、こちらこそ。
そうか、千反田の」


「はい。……くしゅっ!」


「夏風邪か?よくないね。
うん、どうもね。」


何だか、えるちゃんが千反田家だとわかった途端に、遠垣内先輩の態度が変わった。

どこか落ち着かない様子だ。


やっぱり名家の間では、そういった何かがあるのかな?


「それで、何か?」


えるちゃんは遠垣内先輩の変化に気づいていないのか、そのまま話し続けた。


「はい。
実は、この生物講義室に古典部の文集のバックナンバーが保管されていると聞いてきたんです。
ここは以前、古典部の部室だったそうですね。」


「…俺が一年生の頃は、そうだったかな。
去年、あちこちの部室が入れ替わってね。」


良かった…古典部が粗雑な扱いを受けていた訳ではないみたいだ。


「では、古典部の文集はご存知ですか?」


一瞬の間を置いて、それから遠垣内先輩は答えた。


「いや、見ないね。」


怪しい…。


すると摩耶花ちゃんもそう思ったのか、こちらに目配せを送った。

私も折木君も小さく頷く。


「そうですか…。」


お人よしな性格のせいかな?
多分、えるちゃんには勘がない。

あっさりえるちゃんが引き下がろうとした所に、摩耶花ちゃんが入った。
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