氷菓

□プレゼント 奉太郎
2ページ/3ページ

「おはよ、ホータロー。
今日も省エネ運転かい?」


朝から煩いのに会ってしまった。

日頃からこんな奴だったが今日は特に気持ち悪い…。


「里志、お前拾い食いでもしたのか?」


「拾い食いだなんてそんな非文化的な行動は、いくら特段上機嫌な今日の僕でも慎むよ。」


「……何を企んでる…」


「何もないさ。」


そこで里志は不自然に体を揺らした。

そこで俺は気づいた。


「里志、その巾着は昨日破れた奴じゃないか。」


「流石、ホータロー。
目敏いね。

まあ、これは名前に昨日の放課後の内に修繕してもらったからね。」


「名前…?」


里志の口から伊原以外の女子の名前が出た。

思い当たりそうな人物がいるのだが…誰だっただろうか。


俺は肩を竦めた。


「苗字名前だよ。
ホータローと同じクラスの。」


苗字名前。
その名前を聞いた瞬間に全身を駆け回る血流の速度が上がった気がした。


迂闊だった…。
苗字さんで定着していたその彼女の下の名前は名前だったのを思い出した。


「わかったみたいだね。
名前は僕と同じく手芸部だからね。
彼女にこれを託した訳だよ。」


そう言ってこれみよがしに見せてきた巾着は、先程と比べて俺の中で希少価値が上がっていた。


隣の芝は青いという奴か………………いや、違うな。


「どうだい、ホータロー?」


ニヤニヤと笑って気持ち悪い顔の里志が目の前にいる。


「どうって、何がだ。」


「羨ましいんだろ?」


「ッ!!………そんな訳…。」


「まったく、僕が気づいてないとでも思ったのかい?」


「…………。」


ここでしかも里志相手に、不用意に口を開けば、致命傷を負うのは自分だ。

ここは黙秘権の行使に限る。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ