氷菓
□プレゼント 奉太郎
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『そのホータローって、私のクラスの折木奉太郎君?』
手元の針と布から目を離すことなく名前は、自分の向かい側に座る福部里志に向けて声を発した。
「そうそう。
1年B組の人呼んで省エネ主義の折木奉太郎さ!」
『人呼んでるっけ?』
名前は未だに手元から目を離すことはない。
彼女の手には修復途中の巾着があった。
『それよりも、福部君だって手芸部なんだから、自分で直せばいいのに…。』
そう言いつつも手を止める気配のない名前を見て、里志は満足げに口角を上げた。
「名前はわかってないなぁ。
名前に修復してもらってこそ意味が生じるんだよ。」
『そう…。』
名前は気のない返事をしながら、糸を玉止めする段階に入った。
「それで話を戻すけど、名前もホータローのことは知ってるってことで話を進めてもいいかい?」
糸切り鋏で糸を適度な長さに切り、一度巾着を細部まで確認したところで、名前はようやく里志と視線を合わせた。
『まあ、一人のクラスメイトとしての認識ぐらいはあるかな。』
名前は出来上がった巾着を里志に手渡した。
「ありがとう。
相も変わらず、見事な出来だね。」
『どうも。
それで、折木君がどうかしたの?』
「あ、そうだった。
まぁ…何てことないことなんだけど、ホータローと喋ってみてほしいんだ。」
『…なんで?』
名前はさっぱりわからないという顔をしていたが、里志は深く語るつもりはなく、いつものごとく笑って上手くごまかすのだった。