氷菓(原作沿い)

□5.謎解きスタート
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「伊原さん、ご苦労様。
もう帰っていいわよ。」


カウンターの内側から声がして、そちらに目を向けると、中年の終わり近いぐらいの年齢に見える、小柄な女性が立っていた。


「あ、はい。
戻ってたんですか、糸魚川先生。」


名札には糸魚川養子教諭とあった。


「先生、古典部の福部里志です。
僕たちは文集を作るためにバックナンバーを探しているんですが、開架にはないようなので書庫を調べてもいいですか?」


「古典部?……文集?」


糸魚川先生は、驚いた声を上げた。


「貴方たち、古典部なの。
そう……。
残念だけど、文集のバックナンバーは図書室にはないわ。」


何だか、「そう……。」と言った時の糸魚川先生の表情が少し変わったような気がする。

あくまで気がするという話なので、あまり勘だけで話をすると、折木君を疲れた表情にさせてしまう。



「ええ、だから書庫を。」

「書庫にもないのよ。」


「見落としということも。」


「いいえ。」


妙にハッキリと答えられてしまって、あれだけ口が達者な福部君も、引き下がるしかなかった。


「そうですか。わかりました。

……だそうだよ、千反田さん。」


「……困りましたね。」


えるちゃんは微妙に曇った表情で、私と折木君を見た。


「そのうち見つかるさ。
帰ろうぜ。」


折木君が、中途半端に持っていたショルダーバッグを肩にかけようとした所で、摩耶花ちゃんが口を開いた。


「晴れ晴れとしてるわね。
問題解いて気分はすっきりってとこかしら?」


折木君は何か言おうとしたが、途中でやめて肩を竦めただけだった。


「そうですね。
帰りましょうか。
……収穫もありましたし。」


えるちゃんの言葉で、今度こそ古典部は解散した。


「そう、折木さんなら、もしかしたら…。」


再びえるちゃんの小さな呟きを聞いた気がしたが、特に気にすることもたく、私も図書室を後にすることにした。
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