氷菓
□ぶっきらぼうな彼のセリフ5題 奉太郎
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(※うっかり4題目で話を完結させちゃったので、後日談になります。)
名前は悩んでいた。
昨日の出来事が印象的すぎて、その後の記憶がほとんどない。
辛うじて食事も取って、お風呂にも入ってしっかり睡眠は取ったが、今朝母親から心配されたのを見ると、昨日の自分は大層な上の空っぷりだったのだろう。
しかし、朝はこうしてやってくる訳で。
学校に行かなければならない時間なのであって。
名前は重たい足を引きずりながら、学校へと向かった。
その道中、名前は昨日の奉太郎の言葉を、自分の都合の良いように受け取って良いものか、考えていた。
もしそういう意味なのかと奉太郎に聞いたとして、それが自惚れに終わってしまえば、自分が恥ずかしい思いをする。
しかし、もしそういう意味ならば、名前自身願ってもないことだ。
中学時代からの淡い恋心が、いつの間にか友達のままで良いと風化してしまっていたのが、まさかのここで不死鳥のごとく復活するとは…。
これが噂の高校デビューという奴か。(←違う)
結果的に、それとなく昨日のことを聞いてみるという結論で、名前の脳内会議が閉会を迎えようとした時…
「おい。」
『ひぇっ!!』
悶々と考え込んでいた名前の肩に、ポンッと聞き覚えのある声と共に手が置かれた。
驚いて妙な奇声を発した名前は、恐る恐る振り返ると今1番会いたくない人物が立っていた。
「朝からなんて声を出してるんだ。」
呆れながらも微笑んでいる奉太郎を見て、まず名前の口から出たのは朝の挨拶だった。
『お、おはよう…。』
「ああ、おはよう。」
奉太郎に聞くべきことがあったが、いざ聞くとなると上手く言葉が出て来なかった。
というか、まず、それとなくのそれって何!?
パニックを起こしかけた名前は勢いのままに、口を開いた。
『好きです!!ほ、奉太郎のことが…!』
言った後に大きな後悔が襲ったが、一度発した言葉が帰ってくる訳もなく、一気に顔が熱く感じられて、名前は咄嗟に顔を両手で隠した。
(あんなこと言うつもりじゃ…。)
後悔の念に押し潰されそうな名前は、恐る恐る指の間から奉太郎の様子を見た。
『……………え……。』
奉太郎はと言うと、名前と同じくらい顔を赤くして、昨日と同じく口元に手を当てて必死に隠していた。
名前と視線が絡むと、昨日と比べての決まり悪さから、苦し紛れに名前の髪をくしゃくしゃと荒っぽく撫でた。
『うわっ…ちょっ…奉太郎…ッ!』
「いつもいつもお前は…!
人の気も知らないで…!
…ったく……」
何を言い出すかと思えば
(反則だろ、そんなの…。)
お題提供元:確かに恋だった様