氷菓
□ぶっきらぼうな彼のセリフ5題 奉太郎
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『それでね、今日の体育はバスケだったんだけど…。』
すっかりいつもの調子を取り戻した名前は、一人で他愛もない話で盛り上がっていた。
奉太郎はと言えば、変わらず聞き手に周っていたが、その表情はどことなく穏やかだった。
『そう!それで隣のクラスの坂本君がカッコよかったの!
バスケ部って、やっぱり動きが違うよね。』
しかし、この名前の言葉で、それまで穏やかだった奉太郎の表情が、見るからに不機嫌なものに変わった。
名前も今回はそれに早く気づいたが、何が原因なのか皆目見当がつかなかった。
『ほ、奉太郎…?』
「………何だ?」
先ほどのこともあったので、返答はしている奉太郎だったが、その胸中は穏やかなものではなかった。
名前の口から他の男の名前が出たことが気に入らなかった。
別に自分がどうこう言えた話ではないが、そろそろ口に出さなければ、この鈍感は一生気づかないだろう。
「まったく…お前はどれだけ俺を妬かせれば気が済むんだ…。」
奉太郎はそう言って、うねる前髪を押さえて名前を見た。
『………へ…?』
間の抜けた声を出した名前だったが、徐々に言葉の意味を理解すると、耳まで茹蛸のごとく真っ赤に染まった。
『なっ…!?奉太郎…何言って…!?』
慌てて奉太郎から離れようとした名前だったが、相合い傘という至近距離と、いつの間にか奉太郎に腕を捕まえられていて、離れることができなかった。
そして、奉太郎は徐々に顔を近づけて、名前との距離を縮める。
そして耳元で不敵に笑って囁いたのだった。
そのままの意味だ
(ほら、もうお前の家に着いたぞ。)
(……………。)←放心
(やり過ぎたか…。)