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□兵長と洗濯
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熱心に洗濯をするリヴァイ兵長。
彼が極度の潔癖性であることは調査兵団にいればその意外性からか、自然と耳に入ってくる。

現に私の目の前で一心不乱に洗濯に取り組むのは間違いなく人類最強その人だった。
話に聞いていただけで、実際に目にしたことのなかった私には、やはり新鮮な姿で、暫くボーッと見ていたが、慌てて自らの使命を思い出して気が重くなった。

洗濯当番を仰せつかった私の手には、班員の服やら何やらがゴッソリ入った籠がある。
下着とかそういったデリケートなものは各個人で洗うが、それ以外はこうして当番制で回っているのだ。

そして私は運悪くリヴァイ兵長が熱心に洗濯中の現場に鉢合わせてしまったのだ。
私たちを以外にこの洗濯場を使っている人はいないので、余計に気まずい。別に私はリヴァイ兵長と面識があるわけではないが、如何せんあの威圧感たっぷりの存在感に負けてしまいそうだ。
このまま帰ってしまいたいが、班員からの苦情を思うとやるしかない。

そう意気込んだ私は、兵長から少し距離を置いて(避けているように見えない微妙な距離で)洗濯を始めた。
上官なのだから挨拶すべきかとも思ったが、洗濯に集中していらっしゃるようだったのでやめた。


訓練で土塗れかつ汗まみれの服をじゃぶじゃぶと水につけていく。
順調に洗っていき、後は絞るだけとなった。
ふと隣の兵長を盗み見れば、どうやらシャツのシミが気になっているようだ。
あー、あれはシミ抜きしないと…あぁ!そんな力任せに洗ったら…
ふつふつと湧き上がる衝動を声に出さないように努めるが、気になって仕方が無い。
あぁ、また…!
そう思って無意識に肩が揺れてしまい、人類最強様が私の存在に気づいて目が合ってしまった。噂通りの目付きの悪さにいつもの私なら尻尾を巻いて逃げるのだが、この時ばかりは別のことで頭がいっぱいだった。

『それ、貸してください。』

兵長は怪訝な表情を浮かべたが、何も言わずに私にシャツを手渡した。

私は持参していたいらない布をシミの部分に裏からあてがって、シミの部分に洗剤をつけて、丸めた柔らかい紙でポンポンとシミの部分を叩いていく。
兵長からの視線が気になるが、気にせず続ける。
徐々にシミが下の布に移っていき、ほぼ完全にシミが取れた。
最後に一通り洗って終了。

ふー。と達成感に包まれていると、「おい。」という低い声に我に帰った。

『あ、すみません。
こちらはお返ししますね。』

兵長はシャツを受け取ると、シミのあった場所を念入りに見ていった。

やり直しとか言われたらどうしようと内心、冷や汗ダラダラだった。

「おい。」

『は、はい。何でしょう?』

「おまえ、名前は何だ。」

『名前…ですか…?
ナマエ・ミョウジです。』

思っていたような暴言は飛んでくることなく、予想外なことに名前を聞かれた。

「ナマエか…。
助かった、例を言う。」

じ、人類最強からのお礼だと!?
おこがましすぎる!!
色々思うことがありすぎて頭が軽くパニックになった。
ここで取り乱したら完全に変な奴として見られる。
冷静になれ、私。ヒッヒッフー。

『え……いや、お気になさらず。
私が勝手にしたことなので…。
お役に立てたのなら光栄です。』

そう言ってから兵長に敬礼をして、手早く水に濡れたままの服を絞っていく。

兵長もシャツ以外は洗い終わっていたようで、同じように絞っていく。

「洗濯、好きなのか?」

『……あ、はい…洗濯とか掃除とか好きです。』

まさか兵長から声をかけられるとは思っていなかったので、返答が少し遅れてしまった。

「そうか…。」

『兵長もお好きなんですよね?』

「…汚ぇのが我慢ならないだけだ。
おまえんとこの班長なんざ、あんな部屋で生活できる時点で人間じゃねぇ。」

『あはは…ハンジ分隊長は散らかすのが特技ですからね。
私ももう諦めました。』

確かに私の直属の上司であるハンジ分隊長の部屋は、それはそれは凄まじい。
昔は私が定期的に掃除をしていたが、いくら掃除してもすぐに散らかされるので諦めた。

あれ、そういえば、何でリヴァイ兵長は私の上司がハンジ分隊長だと知っているんだろう。
そう思って兵長の顔を見ていたら、不意にこちらを向いた兵長と再び目が合った。

「また掃除しに行ってやれ。
見るに耐えない。諸用で奴の所に行く度に気分が悪くなるなんて御免だ。」

『わかりました。』

私が返事をすると、兵長は洗濯物を持って立ち上がって、帰って行った。

『兵長って、意外と喋りやすいんだなぁ。』

気になることもあったけど、その辺はハンジ分隊長に聞けばいっか。

私も洗い終わった洗濯物を持って、その場を後にした。




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