〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□終焉〜第六章〜
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不「よお、久しぶりだなぁ。まだ江戸に居たのか?」

現れたのは不知火さんだった。

私は不知火さんの姿を見て安心した。

あの後、無事に脱出出来たか心配だったから。

左「てめぇは−−−」

けど、感動の再会とは言えず不知火さんは焦った様子で私達に聞いてきた。

不「……綱道の野郎を知らねぇか?」

「……綱道?」

私は聞いた事がある様なない様な名前を聞いて聞き返した。

不「あの女鬼の父親だよ。ま、血は繋がってねぇが。」

そう言われて、千鶴ちゃんの父上の事だと理解する。

「すいません、分かりません。甲府で会ったのが最後です。」

私はあれからあの【羅刹】や綱道さんに会ってはいない。

不「チッ。」

不知火さんは舌打ちすると、歩いて行ってしまおうとした。

私はそれを呼び止めた。

「ま、待って!千鶴ちゃんの父上は……綱道さんはいったい何をしようとしてるんですか?」

それは私は聞かなければならない事だと思った。

綱道さんだけじゃない。

私の父様だって【羅刹】の研究をしていた。

ましてや、綱道さんが率いていたあの【羅刹】達は私の父様の日記が原因……

不知火さんは面倒そうな顔をしたけど、渋々答えてくれた。

不「……俺や風間が薩摩や長州に手を貸してたのは知ってるだろ?」

「はい。」

私は静かに頷く。

不「俺達はもう手伝ってやる義理は果たしたから手を切ったんだが、連中は俺達の後釜によりによって綱道を据えやがった。ご丁寧に【新たな羅刹】付きでな。」

「……!!」

【新たな羅刹】それは甲府で会ったあの可哀相な人達……

そして、私は不知火さんから衝撃的な事実を知らされた。

不「あの羅刹は伝染病みてぇに人から人へ伝染する。【変若水】なんぞ飲まなくても羅刹の血を飲んだ奴は羅刹になっちまう。綱道はそれを繰り返して国中を羅刹にするつもりだ。」

もしかして、それが『新しい鬼の時代』という事なのだろうか?

不「けど、羅刹にゃ吸血衝動がある。奴らを生かす為には大量の血が必要だ。幕府にも頭の回る奴がいたみたいで、今回、江戸での戦争はなくなった。そこで別口で大量の血を用意しなきゃならなくなった。」

左「って事は綱道さんは幕軍を追い掛けてるのか?」

原田さんが不知火さんに尋ねる。

不「そんなの追っかけるよりお誂え向きの場所があんだろ?近々、そこで血生臭い事件が起こるはずだぜ」

「……っ」

私は不知火さんの話を聞いて背筋が凍った。

それじゃあ、私の予感が正しいのなら綱道さんは誰彼構わず【羅刹】の為に殺してしまう、そういう事なのだろうか?

そんな残酷な事が許されていい訳ない。

左「まさか、その為に戦争を起こすつもりなのか!?」

原田さんは不機嫌な様子で不知火さんに言った。

不「奴は死なねぇ軍隊を作る為には必要な犠牲だと言うさ。……この戦の後にも英国、仏国、露国……新政府の戦う相手はご満足といるからな。」

その言葉に原田さんは怒りを現にする。

左「それがてめぇら長州のやり方かよ!?てめぇらは新しい国を作りたいんじゃなかったのかよ!その為に今まで戦ってきたんじゃねぇのかよ!?そんな化け物みたいな軍隊を作る為に戦争をして……。それがてめぇらが作りたい国だって言うのかよ!?」

原田さんの言葉に不知火さんも感情を爆発させる。

それは原田さんに向けられたものではなく、何処かやりせなさや悔しさを含んでいる様な気がした。

不「そんな訳ねぇだろ!!あいつはそんな事、一言も言ってねぇよ!」

そして不知火さんは涙を堪える様な、悔しくて堪らないといった顔をした。

不知火さんはその『あいつ』と呼ぶ人の為に戦ってる、そんな気がした。




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