〜黎明の桜・原田左之助の抄〜
□蒼空〜章間〜
2ページ/2ページ
簪を見て俺は真っ先に妙の顔が浮かんだ。
俺は妙を本当に愛おしいと思う。
今でも覚えている。
妙が京に来たばかりの頃、あまりにも元気が無かったからぜんざいを食べに連れ出した。
そこで話をしていて俺はついからかいたくなって、顔を近づけて業と耳元で囁いてやった。
そしたら、妙は頬を染めて顔を背けた。
その仕種が女らしくて、俺はそれから妙を女としか見れなくなった。
目で追うようになって妙の様々な一面に気付いた。
賢明に仕事をする姿や、真っ直ぐに物事と向き合う姿勢、辛い筈なのに必死に耐えて人前じゃ笑っていたり……
いつしか目が離せなくなっていた。
俺が守ってやりてぇと、ずっと俺の傍に居て欲しいと思うようになった。
今日もきっと寒いのに、張り切って掃除等しているのだろう。
そう思って妙の姿を思い浮かべれば顔がにやけてくる。
簪を眺めながらそんな事を考えていると、俺の目に紅い玉簪が目に入った。
妙は俺の小姓になってから、女の格好をしていない。
けれど、そんな妙もいつか女に戻る日がくる。
その日が来たら、俺がこの玉簪を髪に飾ってやりたい。
きっと綺麗だ。
黒い髪に紅い玉簪がきらきらと輝いて……
左「親父、これはいくらだ?」
贈物なんて柄じゃねぇけどよ。
なんて思ったけれど、結局俺はその玉簪を買った。
その日の空は高く青く広く……
いつもより綺麗に見えた。
。