〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□玉簪〜第三章〜
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山「……くっ」

甲「聞いてるんですか、山南さん?」

山「……うぐぃ……っぐぁぁああ!」

千「山南さん?」

山南さんは苦痛に顔を歪め、呼びかけの言葉も耳に入ってない。

新「どうした、山南さん?」

千「山南さん、あの……」

「千鶴ちゃんっ!!!」

千「えっ!?」

そして、山南さんの髪がみるみる白くなっていく。

千「きゃあああああ!?」

一瞬だった。

気づいた時には、山南さんは千鶴ちゃんの手首を掴んでいた。

千「っ……くぅぅっ……。い、痛いっ……ううっ、山南さん!?」

山「血……血です」

山南さんは千鶴ちゃんの腕の傷口から血を掬い取った。

山「血をください。君の血を、私に……」

千「い、いやぁ!は、離してくださいっ!!」

左「やめろ、山南さんっ!」

新「くそっ、山南さんまで、血の匂いにあてられやがったか!」

平「山南さん!そいつを離せよ!」

皆が叫ぶが、山南さんは聞いていない様子だ。

歳「取り押さえろ!多少、手荒になってもかまわねえ」

副長は仕方ないといった様子でそう口にした。

新「ちっ、しかたねえ」

左「悪く思わないでくれよ、山南さん」

平「千鶴を殺らせるわけにはいかないんだよ」

皆が次々に刀を構える。

甲「君たち、まさか山南さんを……!?勝手なことは、この伊東が許しませんわ!」

伊東さんはまだ、まくし立てている。

勇「伊東さん、ここは危険だ。後は歳たちに任せて、俺たちは部屋から出ていよう」

甲「あっ、近藤さん!?なにを……わっ、わっ、離しなさいよっ!」

局長は伊東さんを担ぎ上げて無理矢理、部屋から連れ出した。

左「ありがてぇ。後はこっちの始末をつけるだけか。」

新「だが、それがなかなか……」

平「山南さんの腕は半端じゃないし、まして今は……」

皆は苦々しい様子で山南さんに剣を向ける。

しかし、山南さんはそんな皆の姿でさえ、見えていない様子だ。

山「くくっ……そうです、血が欲しい。私の身体は血を欲しているのです」

そしてとうとう、山南さんは手にとった血を口に含んだ。

その時だ、

平「くそ、もう我慢出来ねぇ!」

藤堂さんがそう叫んだ時、副長がそれを制した。

歳「……いや、待て!山南さんの様子がおかしい」

山「」……んぐうあああ……あああ!!」

山南さんが来るしそうに、喉元を抑えて叫んだ。

新「お、おい……山南さん……どうしたんだ?」

叫び声がピタリと止む。

山「……ん……んんん……わ、私は、一体?」

そしてみるみる髪の色が戻っていく。

千「……山南、さん?」

山「雪村……君。わ、私は一体、何を……?」

山南さんの瞳に理性が戻る。

千「良かった!正気に戻ってくれたんですね!?」

左「こりゃあ、どういう事だ?」

新「俺に聞かれてもわからねぇよ」

歳「……俺にもわからん」

皆、口々に分からないと言った。

山「そうか、私も彼らのように、気が触れていたのですね」

その様子を見て、山南さんは自分の置かれている状況を理解した様だ。

千「でも、今はいつもの山南さんです。どうして戻ったのかは、わかりませんけど」

山「私にも分かりません。」

歳「……考えるのは後にして、とにかく後始末だ。そこの死体を片付けて部屋の掃除だ。妙と雪村は傷の手当だ。」

そう言って、今日はお開きになった。





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