〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□玉簪〜第三章〜
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慌てて起き上がると襖がこちら側に倒れている。

そしてそこには一人の隊士が。

千「あの……なにか?」

隊士「………」

千鶴ちゃんの問いに隊士は何も答えない。

「……千鶴ちゃん?この人、変、だよ?」

千「……え?」

隊士は無言のまま立っていて不気味なものを感じる。

隊士「血……血を寄越せ……」

「っ!!」

この人は【羅刹隊】の隊士だ!

隊士「ひひひひ!血を寄越せぇっ!」

不気味な笑い声を響かせて隊士は、刀を抜く。

狂気に冒された顔、紅く光る瞳、そして白い髪。

気づいた時には遅く、退路は塞がれている。

た、助けを……

呼ぼうと声を出そうとするも、上手く声が出ない。

私は千鶴ちゃんを背に庇い、後ろへ下がった。

下がる時に前に渡された自分の小太刀が手に触れる。

咄嗟にそれを掴んで引き抜き、隊士に小太刀の先を向ける。

私では【羅刹】となった彼に敵う訳はない事くらい分かる。

だけど、何もしないよりはましだ。

そんな事を考えていたら、隙が出来てしまった様だ。

隊士「ひゃぁぁぁ!」

隊士が刀を私目掛けて突き出した。

その刀の先が私の右の二の腕辺りを切り裂く。

「……っ!」

その刀は私だけでなく、千鶴ちゃんの腕も切り裂いた。

私の腕から血が滲む。

それでも怯む訳にはいかなかった。

私の後ろには千鶴ちゃんがいる。

私も千鶴ちゃんも腰が抜けてしまっていて、立つ事が出来ない。

傷は以外にも深く、ポタリ、ポタリと腕から滴り落ちた。

隊士「おおお、血、血だぁ……、その血を俺に寄越せぇ……」

狂った隊士が私達をどんどん追い詰める。

私達はとうとう壁際に追い詰められた。

もう、駄目かもしれない。

何とか千鶴ちゃんだけでも−−−

私がそう思った瞬間、千鶴ちゃんが声を上げた。

千「誰か−−助けて下さい!!」

そして隊士は

隊士「ひゃはははは!血ぃ!血だぁ!!」

そう叫んで、私達から畳みにこぼれ落ちた血を嘗め出した。

その光景はいつか見た、あの【異様な光景】と被る。

隊士「……足りない。これじゃ、足りない。」

隊士が畳みから顔を上げ、隊士の紅い瞳が私を捕らえる。

そして、にたりと笑みを浮かべた。

隊士「ひひひひひ……それだっ!おまえの血をもっと寄越せぇ!!」

そう言って、隊士は刀を振り上げた。




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