〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□玉簪〜第三章〜
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異変はその日の夜に起きた。

千「……役立たずの子供、かぁ」

ふと、千鶴ちゃんが呟いた。

「…?どうしたの?」

千「あ、ごめん。聞こえてた?」

千鶴ちゃんはアハハと笑ってそう言った。

「うん。」

千「実はさ、沖田さんにそう言われちゃって。あ、悪い意味じゃなくて、私にもっと人を頼った方がいいっていう助言の意味で言ったんだと思うんだけど…」

千鶴ちゃんは焦って弁明する。

そして俯いて「自分が非力なのは分かってるんだけど、ハッキリ言われると悲しくて…」と言った。

沖田さんは千鶴ちゃんにそんな事を言ったんだ。

「沖田さんは千鶴ちゃんだから言ったんだと思うよ。」

千「……え?」

私はふと昔の沖田さん…、総司を思い出した。

「沖田さんは昔から、どうでもいい人には何も言わないし何もしなかったんだ。」

そう、試衛館に居る時から。

「前に言ったと思うけど、私は勇先生、つまり局長に剣術を習ってたんだ。」

千「……うん。」

千鶴ちゃんはそう言って私の話を聞いてくれた。

「勇先生が出稽古で居ない時は塾頭の沖田さんが稽古をつけてくれたんだけど、それが厳しくてさ。他の門弟には優しく指導してたのに、私にだけ厳しいの。あの頃は凄く悔しくてね。」

その度に泣いて、でも悔しいから最後まで意地で稽古をした。

「でもある日、門弟数人が私を馬鹿にしてたの。沖田さんに厳しく指導されてたのは私だけだったし、何より女だから。そしたらさ、沖田さん、門弟と私を勝負させたのよ?」

千「男と女なのに?」

千鶴ちゃんは驚いていた。

「そう、酷いよね?私はてっきり沖田さんは私の不出来な所を思い知らせる為に試合をさせるんだと思ったの。けど逆だった。試合はあっさりと私の勝ち。沖田さんはね、その門弟に向かって『悔しかったら妙と同じ稽古をしてみろ!』って怒鳴りつけてさ。もちろん門弟は全員その日で辞めちゃった。」

千「そうなんだ……」

「局長もね、その事を知って怒るかと思ったけど笑って『そうか、仕方ないな』って言っただけだったの。食客を五人も抱えていたのに。」

まあ、ふでさんは怒ってたけど。

私の話が終わると、千鶴ちゃんは笑顔になってくれていた。

千「そ、そっか…。妙ちゃんありがとう。私、明日から頑張るね。」

私はそれが嬉しかった。

「うん、私も頑張る」

二人で励まし合って、寝る事となった。

私達が布団に入った時だ。

バタンっ!!!

部屋と廊下との境から激しい音がした。







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