〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□玉簪〜第三章〜
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原田さんの部屋の襖を叩く。

「原田さん、いらっしゃいますか?妙です。」

声を掛けたが返事がない。

どうしたんだろうと思っていると、背後から声を掛けられた。

左「妙ちゃん、早かったね。」

振り返れば、原田さんがお茶を二つ持って立っていた。

左「襖、開けてくれるかな?」

私はそう言われて、襖を開けた。

原田さんに座る様に促されて、私は原田さんの目の前に座る。

すると、以前原田さんが買ってきてくれた包みと同じ包みを出してくれた。

左「午前中の巡察の時にこっそり買ったんだ。」

そう言って包みを広げると、中にはお団子が入っていた。

「これ………」

左「……前に食べただろ?たまには食べたいかと思ってさ。」

「あ、ありがとうございます……」

左「お茶も入れてきたから、二人でお茶にしようぜ?」

原田さんは少し悪戯っぽく笑った。

原田さんって本当に気を使ってくれる。

原田さんがお団子を一本貰って食べれば、甘いあんこの味と草の香が口に広がる。

「おいしい……」

私も自然に笑顔になる。

左「……やっと、笑った。」

すると、原田さんがぽつりと言った。

「……え?」

左「ここの所、妙ちゃんの笑顔を見てないと思ったからさ。」

そう……かな?

普通にしてたつもりなんだけど。

私がキョトンとしていると原田さんは続けて言った。

左「妙ちゃんが元気ないと俺も悲しいから。」

そう言って、原田さんは何かを飲み込む様に一呼吸おいて私を見つめた。

左「………俺はいつでも待ってるから。」

私は原田さんがこの間の私の涙を気にしてくれているんだと思った。

「原田さん………」

私も原田さんを見つめた。

この人は本当に優しい人……

けど、今の私にはそれは残酷以外何でもない。

私は俯いて、笑った。

「ごめんなさい、私……」

左「いいって。話せる時が来たら話してくれれば。」

でも待っていてくれても話せないかもしれない。

「はい……。でも、話せないかもしれません。」

左「それでも待ってる。」

「……え?」

左「……俺はおじいさんになっても待ってるさ。」

原田さんは半分笑って、半分真面目に言った。

「ふふ、」

私はそんな原田さんについ、笑ってしまった。

「じゃあ、私がおばあさんになったら話します。」

私も半分冗談で言った。

左「ま、まじ?……でも、妙ちゃんのおばあさんかぁ、おばあさんになっても可愛いんだろうな。」

「おばあさんになったら頭は白髪だし、顔はシワシワですよ?可愛くはないと思いますけど……」

左「いやいや、絶対可愛い。他の誰が何と言っても俺の目にはそう映る。」

「その頃の原田さんはおじいさんですよ?目だって悪くなってますって。」

左「大丈夫、大丈夫。じゃあさ、賭ける?俺がおじいさんになって妙ちゃんがおばあさんになっても、俺は妙ちゃんを可愛いっと思うかどうか。」

私はドキドキした。

それはまるで求婚されている様な言葉だったから。

でもきっと原田さんの冗談、だよね?

私は悔しいからその冗談に乗った。

「分かりました。じゃあ、もし賭けに負けたらまたお団子ご馳走して下さいね。」

私がそう言うと原田さんは少し驚いて、嬉しそうに笑って言った。

左「じゃあ、それまで妙ちゃんを守ってやんないとな。」

その笑顔が眩しくて、私はまた胸が苦しくなった。

きっと私はこの人には敵わないんだろうな、と思った。






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