〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□終焉〜第六章〜
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新政府軍はその後さらに兵を進め、とうとう江戸間近までやってきた。

新政府軍と幕臣達の間でいつ戦争が起きてもおかしくない状況が続いていた。

しかし、四月十一日、

薩摩の代表と幕府で話し合いが持たれ、江戸城は新政府軍へ明け渡される事となった。

それなりの武器を揃えた部隊や血気盛んな者達は、既に江戸を捨てて北へ行ってしまった事が幸いしたのか、江戸は戦火に巻き込まれずに済んだのは幸いと思えた。

けれど、何処か腑に落ちない気持ちもある。

そして、私達も靖共隊として会津に向かう事になった。

そんな中、私と原田さんは江戸の状況を調べる為に本隊とは別行動を取っていた。

江戸の町はシンと静まり返っていて、不気味な雰囲気をしていた。

「……とても静かですね、私の知ってる江戸じゃないみたい……。」

まだ夕刻だといいのに人の往来は少なく、既に閉じている店も多い。

左「ま、全面戦争を避けられただけでも儲けもんだろ。鳥羽伏見みたいな事になっちまったら、どんだけ死者が出たか分かんねぇからな。」

「それは……、そうなんですけど、私は何処か腑に落ちないというか、何か裏がある気がして…」

私は原田さんに自分の思っている事を伝えてみる。

原田さんはふっと表情を変えて言った。

左「……恐らく、俺達が甲府に行かされたのはこれが目的だったのかもな。」

「ど、どういう事、ですか?」

私は原田さんの考えている事が理解出来ずに聞いてみた。

左「幕府は最初から江戸城を明け渡すつもりだったって事だよ。」

「……え?」

左「おかしいと思ってたんだ。近藤さんに位なんか授けたり、たんまり金や大砲を用意したり。そんなもんをちらつかせりゃ俺達は間違いなく甲府へ行くと踏んだんだろ。……江戸城を無血開城するにゃ、血の気の多い俺達は邪魔だったって事だ。いや、俺達だけじゃねぇ。今、北で戦ってる奴らだって金や大砲をたんまり頂戴させられて、追っ払われた……。そんな気がしてならねぇ。」

私は原田さんが言っている事が信じられなかった。

いや、信じたくなかった。

勇先生や歳さん達が必死になって守ろうとしたもの、信じてきたものがそんなに簡単に彼等を裏切った等と信じたくなかった。

「そ、そんな!だって皆は幕府の為に……」

左「……関係ねぇよ。時代はもう新選組は必要としてねぇって事だ。この間までお取り潰し寸前だった長州が大手を振って歩いているのを見りゃ分かるだろ?」

「………」

原田さんは苦々しい顔で言った。

恐らく、原田さんも私と同じくやるせない気持ちを抱えているんだと思う。

けど、私の顔を見て私を宥める様にわざと明るく言ってくれた。

左「……ま、そんな悲観すんなって。俺達は俺達の戦いをするまでだろ。それに戦が終わったら、所帯持って静かに暮らそうぜ、な。」

「………はい。」

一様、返事をしてみたけど、私の心は悲しい気持ちでいっぱいだった。

その時、見知った人が私達に近づいてきた。




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