〜黎明の桜・原田左之助の抄〜

□玉簪〜第三章〜
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慶応二年 一月十日 第十五代将軍 徳川慶善公が就任した。

しかし、その僅か二十日後、孝明天皇が崩御された。

この事は日の本の国に衝撃を与え、国全体が不吉な雲に覆われる様な気がした。

もちろん新選組も例外ではなく、この頃から次第に派閥同士の争いが増えた気がした。

いや、元々合わない物同士の歪みが明らかになっただけなのかもしれないが……

急速に私達をとりまく世界が音を立てながら軋み始めていく様な感じがした。

そして、季節が変わり、春となった。

私が京へ来て二度目の春だ。

今日は千鶴ちゃんは沖田さんと巡察へ出かけた。

私は広間の掃除をしている。

戸を開け放てば、春風が吹き抜けて心地好い。

原田さんはあの私の涙の訳は気かなかった。

きっと私が話せる様になるまで待ってくれているんだと思う。

何となくだけど、原田さんが私を心配してくれてる事が分かる。

けど、話せる訳はない。

私、原田さんにとても失礼な事をしているんだと思う。

けど、私の想いは原田さんには迷惑なだけだし……

結局、私は原田さんへの想いを打ち消す事が出来ずに居る。

辛いだけなのは分かっているけど、どうしようもない。

あの時、永倉さんが『自分じゃどうしようもない』と言った事は本当だと思った。

後は自分が冷静でいられればいいのだけれど……

左「妙ちゃん、ここに居たんだ。」

私が雑巾掛けを半分程終えると原田さんが広間へやってきた。

「原田さん、お疲れ様です。」

左「妙ちゃんもお疲れ。」

原田さんはニコニコして私に言ってくれる。

左「終わったらさ、俺の部屋へ来てよ。」

「原田さんの部屋ですか?」

左「そう、じゃよろしく。」

原田さんはそう言うと、広間から出て行った。

何か仕事だろうか。

私は残り半分の雑巾掛けを一生懸命やって、終わりにした。







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