〜黎明の桜・斎藤一の抄〜

□君がため…〜章間〜
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ザザーン、ザザーン

私達を乗せた軍艦は江戸へと順調に進んでいる。

大阪から江戸へは3日余りで着く予定だ。

山崎さんの具合もかなり良くないと聞いた。

1日でも早く江戸へ行き、医者に診せたい、そう局長は話していた。

夜、私は寝付くことが出来ず、今は甲板に居る。

斎藤さん……

試衛館に居る頃からやり直せたらいいのに。

そしたらこんな未来じゃなくて違う今があったのかな?

……私は斎藤さんへの想いを捨てるべき...なのかな?

斎藤さんが、そう望むのであれば私はーー。

出来るかな?

私に斎藤さんを忘れる事が。

何故、話をしてくれないのか理由を知りたい。

今でも私に気持ちがあるのか、知りたい。

『もう気持ちは無い』と言われれば踏ん切りがつけられるのに・・・

そう思う自分がいる。

斎藤さんと話せなくなったのは八幡山に向かう途中、風間に会ってから。

やっぱり風間との事を聞いて嫌になったのだろうと思う。

私にはそれしか理由が見つからない。

こんな汚れた私に嫌悪したのだろう。

ふとそんなことを考えてしまう。

それとも他にいい人が...?

話が出来ないから不安が不安を煽り嫌な事ばかり考えてしまう。

疲れてるのかな。

ふと見ると甲板の奥に人影が見える。

「斎藤……さん?」

人影だけで斎藤さんと気づいてしまう自分を恨めしく思う。

ゆっくりとその人影がこちらを向く。

久しぶり・・・そんな感じがしてしまう。

けれど、海の上は暗く斎藤さんの顔はよく見えない。

斎藤さんはゆっくりとこちらに歩いて来たが、私とは目も合わせずに、何も言わず通り過ぎる。

「ま、待って。斎藤さん」

私は思わず呼び止めてしまった。

斎藤さんは……止まってくれた。

今なら私の話を聞いてくれるのだろうか?

「斎藤……さん。あの……」

そこまで言って私は言葉が見つからなくなってしまった。

私……何を話せばいいんだろう?

話したかったのにいざ話すとなると何を話せばいいのか分からない。

どうしよう……

しばらくの沈黙の後、斎藤さんが口を開いた。

斎「もう、俺に構うな。」

「……っ!」

私に背を向けたまま、そう言った。

「それは、私への気持ちはないと言う事、ですか?」

私は思わずそう聞いていた。

斎「……」

「私が…………、風間に…、他の、男に……触れられたから………」

斎「っ!」

そこまで言って私を言葉が出なくなってしまった。

胸が苦しくて苦しくて息が上手く出来なかった。

「……ごめん、なさい。」

斎藤さんは今日は否定しなかった。

やっぱりそうだったんだ。

他の男に犯された女なんて嫌だよね。

私があんな事にならなければ、斎藤さんを傷付けずに済んだのにーー。

「本当に、ごめんなさい。」

斎「……江戸に着いたら新選組は忙しくなる。俺は君に構っている暇はなくなるだろう。」

君に”………?

そっか、

斎藤さんはもう私の名前を呼んでもくれないんだ。

斎「……」

それからは斎藤さんは何も話さずに甲板から出て行った。

私を何を考えていいのか分からずいた。

溢れる涙を止める方法も分からず、一人で泣いていた。











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