「おう!名前!」
『ぅえ!?か、快斗』
「なんでそんなに驚いてるんだよ」
江古田高校。
自分の教室に入ると、いつもの様に快斗があいさつをしてきてくれた。いつもなら、おはようという言葉におはようと返すだけなのだが・・・。
「名前ちゃんを驚かさないでよバ快斗!」
「俺は何もしてないだろ!?なにピリピリしてんだよ青子!」
「むきゃー!昨日また出たのよ!あの怪盗キッド!」
『!?』
「怪盗キッド」
この単語に思わず反応してしまった。
青子と快斗がいつものように言い合いをしているのを、私もいつものようにスルーする。
しかし、頭の中はいつもと違い、二人の会話に耳を澄ませていた。
「キッドはすごいやつなんだよ!」
「何よあんなこそ泥!どうせ素顔はこーんな顔したおっさんよ!」
「何ー!?キッドはかっこいいに決まってんだろ!?」
キッドの素顔、か。
私の部屋に来た怪盗キッドの顔が私の顔に近づいてきたとき、モノクルの下に見えた顔。あれは、確かに「快斗」の顔だった。
でもキッドは変装が得意だし、あれが素顔か分からない。
それに、キッドは私に言った。
「次はあなたのファーストキスをいただきに参ります」
あんなこと言うんだから、わざと快斗の顔を借りた可能性もある。
私が密かに想いを寄せている、快斗の顔を・・・。
「名前ちゃん、どうしたの?なんだか調子が悪そうだよ?」
『青子・・・、ちょっと寝不足なだけだよ』
「保健室行ったほうがいいんじゃない?」
『大丈夫・・・』
ふと顔を上げると、快斗とばっちり目が合ってしまった。
『やっぱり、保健室行こうかな』
「青子、ついていこうか?」
『ありがとう。でもいいよ。もうすぐ授業始まっちゃうし』
赤くなった顔を隠すように、足早に教室を後にした。