あわただしく朝の支度を始める。
姿見に映る自分は、上下おそろいの下着でばっちり決めている。
今日は水色。
朝の満員電車、決まった車両の決まった扉から何とか乗り込むと、今日も爽やかな彼。
「おはよう、名前ちゃん」
『……おはよう、黒羽君』
控えめに挨拶をしたところで電車が出発。
しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと身をかがめて、私の耳元で囁く。
「名前、今日のパンツは?」
『……今日は、水色です』
控えめに顔を上げると、黒羽君がにっこりと笑顔を向けてくれる。
それからは黙って目的の駅に到着するのを待つのだ。
これが、ここ一週間の毎朝の日課。
新しい下着を買ってしまった。王道の白。
なんだかんだ持っていなかったのだ。
教えるためだけに新しいのを買ってしまう私はなんて馬鹿な女なんだろう。
上下を白で決めて、今日も電車に乗り込む。
なんだか、今日はいつもよりも人が多いような気がする。
電車に乗り込むのもやっとで、扉が閉まると、すぐに扉側に追い込まれてしまう。
「あ、名前ちゃん、おはよう。大丈夫?」
『く、黒羽君……!』
黒羽君は、いわゆる壁ドンのような体勢で、私を混雑から守ってくれている。
肘まで壁につけている分、私との距離はとても近い。
向いあうなんてとてもできなくて、私はすぐに扉の方を向く。
背中には黒羽君のぬくもり。耳元にはすぐ黒羽君の顔。
「名前、」
『ひ、ひゃい!』
「今日は何色……?」
なんでそんな色っぽい声で囁くの!
どうしたって変な気分になっちゃう。
『今日は……白、です』
今日は黒羽君の笑顔を見る余裕なんてとてもない。
電車を降りるまで、もうしゃべらず動かず我慢だ!