壱
□お湯
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『!!……才蔵っ』
「わかってる。来たな」
気配をりんと才蔵が察知し才蔵は素早く伊佐那海の部屋の屋根上にと気配を消し隠れ、りんは伊佐那海の明かりを灯していた蝋燭をフッと息をかけ消えたところで同じくさっと身を隠すために………
ガタリ
『…………ぶっ。』
「(やっぱり毒にやられっぱなしじゃねーか。)」
上にと飛ぼうとしたのだが、フラりとバランスを崩し、畳に体全体を打ち付ける。
普通だったらりんはオーバーリアクションでゴロゴロ転がったり、痛い痛いと叫ぶのだが、現在、敵が来ているということで空気を読んで声を出さないようにしている。
ダメージをおった体でゆっくりと身を起こそうとすると近くに伊佐那海が大切な物を入れている引き出しが見えたので危なかった。とホッと安心する。
『(壊したら何仕出かすかわかったもんじゃない!!)』
とりあえずは逃げようとするものの
スウッ
『!!』
「ふふっ、いい夢見てるかい?
そしてまだ起きてるんだね。
流石犬神。」
『だから犬神犬神って
………………私はりんだっつー…………!!』
ダダダダン
タイミング良く敵、石川五衛門が現れ、言い返そうとしたときに針が両手足の首にそれぞれ一本ずつ突き刺さる。バランスを崩したりんはドンと音を立て壁にもたれ掛かる。危なくまた引き出しにぶつかりそうだった。とホッと一息。
たらりと血が流れさらに動かそうとしても思い通りに……というより全く体が動かない。良いところに針を刺したなと落ち込む。
………………ホント自分役たたず。
「_____これがお宝…
どれどれ………」
『伊佐那海に触るなッ!!
[具現化 狼!!]』
動かないのを見越してか伊佐那海の髪に付けた奇魂[クシミタマ]を触ろうとする五衛門にりんは吠え、ありったけの力を込め影から狼を呼び出す、グルルルと唸り牙を剥く姿に人の二倍以上の大きさに思わず五衛門は触ることをやめ、りんをみる。力を使い果たしたりんはぐったりと虚ろな目、されどまだ諦めていないと瞳はキラリと鈍い光を放っていた。それも紅い目ではなく、蒼の目だけが。
[ガルルルルルルル]
「奇魂を頂く前に犬神を捕らえてからの方が良さそうだ」
[ウガァァァァァ!!!]
「!!」
飛びかかる狼を五衛門が扇で対抗としようとしたもののスッと消えてしまった為に驚く。
そして、いつ襲ってもいいよう身構えていると、全く来ない。
ちらりとりんの方へと視線を戻すとりんの隣にいつの間にか狼が伊佐那海をくわえて立っていた。
パッとりんの隣に伊佐那海を口から離すと口をパクパクしはじめた。最初はワンと吠えるもののだいぶ時間がたつにつれ吠える声の中に言葉が入る。
《……………まも……る……》
「ほう、喋れたんだ。」
《……護るた……めに……》
狼が突如闇に包まれ姿を変えた。
パッと闇を一斬りし、現れたのは白の髪、紅くきらきらとさせた目をした男がどーーもと一言。
「(誰だ?コイツ。)」
《力を貸すぞ?なぁ、才蔵クン?》
「俺は穏業なら得意なんでな」
五衛門の後ろに武器を構えた才蔵にニヤリと笑いふらふらーと手をふる元狼、現紅い目をした男が刀を持ち、伊佐那海とりんを背に、護るように前に立っていた。
《あり?無視?
………………才蔵クーーン?》
「こいつ…
さすが伊賀者……
手前は起きてると思ったよ!!」
「ひでえ手段[マネ]しやがって
許さねえ!!」
「_____ハッ
なに温いことを言ってるんだい?
忍の手段にひどいもひどくないもあるかい!!」
《(俺、敵にもガン無視されてるよね?登場して早々俺の扱い酷くね?)》
ガクリと肩を落とす白の髪の男。
しかし、いつ襲って来るかもわからない状況でずっとそうしている訳にもいかない。なので、様子を見ることに決める。
五衛門が扇から仕込み針を一気に何発も出す。
それを才蔵は刀で払い五衛門へと攻撃を仕掛ける。その繰り返しが続き、二人を護り動かず光景を見る白髪の男はあることに気づく。
《(毒で鈍ってやがるな。)》
少し、少しずつと戦うたびに行動が鈍り息も少しずつ上がってきている。
勿論白髪の男は元は影なので耐性とか必要はない。
はぁ、と男はため息を付いてきちりと刀を握る。
「チィ!!」
仕込み針が再び飛んで来る。息も絶え絶えに襲いくる仕込み針には完全に防ぎきれない。
そう思った白の髪の男は才蔵を押しやり手に持つ刀で仕込み針を一つ一つを素早く弾く。
《…………よォ。
大丈夫〜?才蔵くーん?》
全てはらい終わった白の髪の男が才蔵を見る。
が、才蔵はその男に吃驚以上の表現を示す。
「…………お……お前
……………刺さってるぞ?」
《え?何が?》
才蔵が見たのは男の額に一本仕込み針が突き刺さりそこから血がたらりと流れていた光景だった。
ちらりと男は額を見たのかずぽりと針を抜きそれを背中に隠した。
「今……完全に刺さってたよな
それ………大丈夫か?」
《え?何言ってんの?
刺さってないからね。ホラ。》
「血だらけじゃねーか。
無理すんなよ。本当大丈夫かよお前。」
《だから刺さってないって言ってんじゃん
これはアレだよちょっとかすって血が出たみたいな断じて刺さってないからね》
「いや、でもよ」
《刺さってねーって言ってんだろーがァァ!!
そんなにお前が俺を刺したいか!!
あーわかった!!じゃあ刺さったことにしといてやるよ
刺さってないからねホントは》
「完全に刺さってた。」
《いい加減にしろよお前ェェ!!
刺さってないって刺さった本人が言ってんだから刺さってねー事でいいだろーが!!》
「今認めたな。」
《あのさァ、お前さァ、
空気を読めよ。
折角登場して良いとこ見せたのに俺メッチャカッコ悪いじゃん
完全に全部打ち落とした顔してたじゃんメッチャ恥ずかしいじゃん!!》
男は毒にやられてる才蔵の肩を掴みイラッとしながらプンプンと怒りながら仕込み針が刺さってないと何度も抗議した。
それも敵、石川五衛門をスルーして会話が始まる。
そして会話がどんどんヒートアップしていくうちに五衛門が少しずつキレ始め
ドン
「!!!」
「おや当たっちまったねえ」
ぶちギレた五衛門は才蔵目掛けて仕込み針を飛ばした。
男と話す才蔵は思わず、手で防いでしまい四本腕に刺さった。
「(は?元はというとコイツのせいじゃねーか!!)」
元凶の白の髪の男は何もなかったかのように平然と敵を見据えていたのだった。