君たちと俺

狼さんと弟くん
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「あ、これ出てたんだ」


見逃すなんて不覚だと呟きながらマンガを手に取るのは浅羽祐希


秋に入ったというのに夏の暑さが復活している今日、冷房が入ったコンビニはすこし寒い


パラパラとページを捲りながら視線を落としていた祐希の背中をちょんちょんと何かが叩く


ん?と振り向くと、何とそこにはあの黒沢了


『これ落とした…ぞ』


祐希の顔を目にし、動きを止める黒沢の差し出された手には家の鍵がある


祐「あ、どうも」


祐希がそれを受け取れば、はっとした様子の黒沢


『…おぅ』


それだけ言ってコピー機に向かっていった


何となく、その背中を目で追う祐希


黒沢は、背負っていた青の革製のバックパックからクリアファイルを取り出している


そして、その中身を並べ、ガッコンガッコンとコピーし始めた


何だか不思議なその光景に目を奪われる祐希


しばらくして、コピーを終えたらしい黒沢がファイルをしまいはじめる


その時に見えた、ファイルの中身


(…楽譜?)


そう、それは楽譜だった


問題児で一匹狼(それ関係ある?)の黒沢には似合わないそれ


しっかりとしまい終えた黒沢が、ちろりと祐希に視線を寄越す


ガン見していた祐希とバッチリ視線が合った瞬間、ぎくりと固まる黒沢


祐希が小さく頭を下げれば、黒沢も本当に小さく顎を突き出すような感じで頭を下げる


その様子に、心の中でこっそり驚く祐希


そして、コンビニを出ていく黒沢の背中を再び視線で追えば、道路脇に止められたバイクへと近づいていく


いわゆる、"イカツイ"と称されるようなバイクに跨っているのは髪が金色の男性


千鶴のようにハーフだかとかではなく、意図的に染められた金髪


その男性にヘルメットを手渡されずぽっと装着する黒沢


男の後ろに黒沢が跨ったところで、男がいまだに見つめているコンビニ内の祐希を指差す


そして向けられる、黒沢の視線


男が何かを言い、それを聞いた黒沢がヘルメットの上から男の頭を叩く


それに笑いながら、何故か祐希に手を振ってくる男


祐希が何の反応も示さずにいれば、バイクは2人を乗せてその場から立ち去っていった


2人がいなくなっても、祐希はしばらくそこから視線を外せないでいた


思い出すのは、男の頭を叩いた時の黒沢の顔


切れ長の目を細めていた


いつもは、鋭いその瞳は、優しく緩んでいた


狼さんの意外な表情に、祐希は数秒間呼吸を忘れていた






(コンビニでの再会)




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