君たちと俺

狼さんは神出鬼没
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悠「春ってさ、勉強に関しては本当に不器用だよね」


春「うぅ、すみません…」


夕暮れの放課後、窓から入る夕日で赤く染まる廊下を並んで歩く春と悠太


ついさっきまで英語の宿題に勤しんでいたのだ


そろそろ帰ろうかと腰を上げたはいいが、今度は春が宿題を教室に忘れ、取りに戻ったところだった


そして二人は、今度こそ帰路につこうとしていた


春「あの、悠太くん」


悠「ん?」


春「すみません、こんな時間まで付き合ってもらって…」


申し訳なさそうにうつ向いて、制服の裾をぐにぐにいじる春の姿に、悠太の口元が緩む


悠「気にしてないからいいよ」


春「そうですか?…ありがとうございます」


並んで歩く二人の影が、壁に映し出されている


それを見ながら、春もそっと小さく笑う


悠「そういえばこの間、祐希が会ったみたい」


春「え?誰にですか?」


悠「ほら、黒沢くん」


一瞬、ポカンと口を開ける春


春「祐希くんって、黒沢くんとお友だちだったんですか?」


悠「いやいや、コンビニで偶然ですよ」


春「なるほど…」


複雑そうな顔をする春に、チロリと目をむける悠太


悠「春さん?」


春「…黒沢くんは、寂しくないんですかね」


悠「寂しい?」


春「いつも、一人でいるから…」


足元に視線を落とす春は、肩も一緒に落とす


春「僕はいつも悠太くんや祐希くん、要くんと千鶴くんが一緒にいるから…一人だなんて想像できなくて」


ふふっと笑う顔はすこし寂しそうだ


悠「…寂しくないわけでは、ないと思うよ」


春「ですよね」


悠「…すごく気にしてるんだね」


春「あ!いえっ、その…っ!」


悠太の言葉に慌てたように顔を上げた春


そして、否定しようとした言葉は途中で止まる


春の瞳が向けられているのは、前方


それを追って悠太も前を向く


そこには、東と並んで歩く黒沢の背中が見えた


春「あれって…」


悠「東先生と、黒沢くんですね」


春「はぁ…」


驚いたように二人の背中を見つめる春


並んで歩く二人は何かを話しているが、聞こえてくるのは東の声ばかり


それも、話を内容を聞き取るには困難な音量だが


チラチラと見える東の表情には笑顔が浮かんでいる


けっして深刻な会話をしているようには見えない


教師と顔を合わせれば説教されている黒沢にしては珍しい光景だ


悠「仲、いいんだね」


春「え?」


悠「だぶん、仲いいんじゃないかな…あの二人」


春は、悠太の言葉に再び顔を前に向ける


そして、並ぶ背中に


そっと頬を緩ませた







悠「…嬉しそうだね」


春「え?」


昇降口


上履きからローファーへと履き替えていると、悠太がポツリとそう言った


首を傾げる春に、悠太はだって、と言葉を続ける


悠「何かいつも以上に花飛ばしてるし」


春「は、花、ですか…?」


理解できていない様子の春に、悠太が返事をしようとした時、バタバタという音が聞こえた


それは足音で、慌ただしいそれと一緒に、声も聞こえる


「待たんか黒沢ー!!」


それは生活主任の教師の声で


追われているのは黒沢らしい


春と悠太は顔を見合わせる


そして、声と足音が聞こえてくる階段の上に顔を向けたときだった


ダンッという音とともに、何かが落ちてきた


正確には、飛び降りてきたのだが


春「く、黒沢くん!?」


そう、飛び降りてきたのは黒沢だった


春の声に顔を上げた黒沢は、階段の影へと隠れる


そして、いつかの屋上と同じように、口元に人差し指を立てた


「黒沢ー!!どこ行ったー!!」


ダダダッと降りてきた生活主任は息を切らしている


「お前たち、黒沢見なかったか?」


悠「えーと」


春「あ、あっちに行きました!」


どう言うべきかと悩む悠太だったが、焦ったように体育館の方向を指差した春にすこしばかり驚く


「お、そうか!」


生活主任はそれを疑うことなく、春が示した方向へと駆けていった


生活主任の足音が聞こえなくなってから物陰から出る黒沢は、春へと右手を伸ばす


春は自分へと伸びる黒沢の手に一瞬体を強ばらせるも、目線は黒沢から外さない


そしてぽふりと


やさしく春の頭へと乗せられた黒沢の手


数回ぽんぽんとバウンドさせると、スラックスのポッケへと戻っていく


『じゃ…』









(獲って食べたりはいたしません)




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