裏方で奥の手な主人公(?)

□第七問 こんなこともあろうかとッ!
2ページ/5ページ

8:00_AM

「昨日言っていた作戦を実行するぞ」

登校して早々、雄二はクラスメイトに告げる。

「作戦?でも開戦時刻より一時間も前だよ?」

「相手はBクラスじゃない。Cクラスの方だ」

「あっ、そっちか」

雄二は昨日言っていた考えを行動に移すようだ。

「それで、具体的には何をするの?」

「ああ、それはだな……」

そう言って、雄二は紙袋を一つ取り出す。

「雄二、何それ?」

「ん?これはな……」

雄二は紙袋から中身を取り出す。

「……女子の制服?」

「そうだ。こいつを秀吉に着てもらう」

袋から出てきたのは、赤と黒を基調としたブレザータイプの……所謂文月学園の女子生徒用の制服である。

(なんで雄二が女子の制服なんか持ってるんだろう……)

「と、いうわけで秀吉。頼むぞ」

「心得た」

雄二から女子の制服を受けとると、秀吉は自分の制服に手を掛ける。

『『『おぉぉーっ』』』

「…………!」

クラスから歓喜の声が上がる。ムッツリーニも、着替えの瞬間を写真に収めようとカメラを構える。

「うむ、これで女子生徒に見えるかの」

『『『うおぉぉーっ!』』』

「…………!?」

しかしシャッターを切ろうとした時、既に秀吉は着替え終えていた。

「……何だかウチのプライドがズタズタに引き裂かれた気がする……」

「……何でしょう。この複雑な感情は……」

「凄いよ秀吉!やっぱり秀吉は正真正銘の美少女だよ!」

「だからワシは男じゃ」

秀吉は反論するものの、今の容姿は何処からどう見ても、学園で上位に食い込むほどの美少女である。

「…………もう、着替え終わり?」

ムッツリーニは血涙を流しながら問いかける。

「早着替えは演劇部の必須技能じゃからのう。これくらい、あっという間じゃ」

「…………」

それを聞いたムッツリーニは歯を噛み締め、肩が小刻みに震える。

「…………う……うなぁーーーッ!!」

すると突然、普段のムッツリーニでは考えられない程の大声を上げて、拳を振り上げながら雄二に向かっていく。

「どうしたムッツリーニ!?うぉっ!危ねぇっ!」

「…………そういう作戦なら先に言って欲しいッ!」

そこまで言うと、ムッツリーニは両手と膝を床について泣き始めた。

「……ムッツリーニ、着替え中の写真を撮り損ねたのがよっぽど悔しかったんだね」

明久はムッツリーニの姿を見てため息をつく。

「そういえば雄二。秀吉に女装をさせて何をさせる気なの?」

「ああ、そうだった。秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」

秀吉にはAクラスに所属している双子の姉『木下優子』が居る。二卵性の双生児なのにも関わらず顔つきは瓜二つで、身内にさえもよく間違えられ程だ。

「それじゃ、皆は待っていてくれ。行くぞ秀吉」

「うむ。承知」

「あっ、僕も行くよ」

そうして雄二は秀吉、明久の二人を連れてCクラスへ向かった。Cクラスは教室の構造上、Fクラスとだいぶ離れている。もし戦うことになれば厄介な事此の上無いだろう。
三人はそのまましばらく歩き、Cクラスの前へ到着する。

「秀吉。済まないが、ここからは一人で頼むぞ。あいつらを上手く挑発して、敵の目をAクラスに向かうように仕向けてくれ」

「出来る限りのことはやってみるが……過度な期待はせんでくれよ」

秀吉はあまり自信が無さそうに答える。秀吉を見送った二人は、離れた場所へ移動して静かに見守る。

「……雄二、秀吉は大丈夫かな?あんな調子だけど」

「ん?ああ。別に問題は無いだろ」

「本当?」

「勿論だ。なんたってあいつは―――おっと、秀吉が教室に入る。静かにな」

「う、うん」

雄二が口に指を当てる。それとほぼ同時に、ガラガラガラッと秀吉がCクラスの扉を開けた。


『静まりなさい!穢らわしい豚ども!』


「うわぁ……」

「流石だな、秀吉」

秀吉が声を変えた、木下優子と思われる声が廊下まで響き渡る。

『な、何よアンタ!』

それを聞いてCクラス代表の小山が声を荒げながら、教室の奥から出てくる。

『近付かないで!こっちまで臭いが移るわ!』

秀吉はこれでもかという程罵倒を浴びせる。

『アンタ、Aクラスの木下ね?ちょっとテストの出来がいいからって調子に乗ってるんじゃないわよ!』

『近付かないでって言ったのが聞こえなかったのかしら?人の言葉も理解出来ないなんて家畜にも劣るわね。貴女達には豚小屋ですら贅沢過ぎるわ!』

『なっ!よりにもよって私達にはFクラスすら勿体ないですって!?』

(そこまでは言ってないぞ、小山さん!)

『試召戦争の準備をしているみたいだけど、貴女達みたいなのにうろうろされると目障りなのよねぇ』

『なんですって!』

『本当はこんな汚れ仕事はやりたくないんだけれど、準備が出来次第私達が直々に叩き潰してあげるわ!二度と戦争なんて起こす気が出ないようにね!』

そう言い残し、秀吉はCクラスを出た。

「これで良かったかのう?」スッキリ

「ああ。バッチリだ」

『Fクラスなんて相手にしてる場合じゃないわ!Aクラスをやるわよ!』

Cクラスから小山のヒステリックな叫び声が聞こえてくる。どうやら作戦は成功したようだ。

「それにしても秀吉、今日はいつにも増してキレが良かったね。何かあったらの?」

「別に何もないぞ。逆さフジヤマ・タイガーブリーカーなんてワシは食らってないぞ」

「そ、そうなんだ……」

きっと秀吉の家には、某Tiger Hole(二つの意味で)に通っている虎仮面が住んでいるのだろう。

「作戦も上手くいったことだし、俺達もBクラス戦の準備を始めるぞ」

「あっ、うん」

そう言うと三人はFクラスへ足早に帰っていった。






次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ