裏方で奥の手な主人公(?)

□第二問 自己紹介って何を言えばいいのか分からないよね?
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「それにしても……本当にボロいなぁFクラスは……」

Fクラスにたどり着いた悠里。他クラスとの設備のあまりの差に少し唖然としていた。

「……取り敢えず入るか」

ここで立ち止まっても仕方がないと、再起動した悠里は教室の戸を開けた。

「ノックしてもしもぉ〜し。ん?」

「お?悠里じゃないか。お前Fクラスになったのか」

声が聞こえた方を見ると、教壇に立っている男がいた。

「雄二、何やってんだ?」

彼は悠里の昨年のクラスメイト『坂本雄二』だ。

「教壇に立ってみているだけだ。先生が遅れているらしいからな」

「ふーん。この面子だと―――雄二がクラス代表か」

「おっ、よくわかったな」

「……やるのか?」

「勿論だ。その為に俺はこの学校に来たんだからな」

「そうか……まあ俺もやれる範囲で手を貸そう」

「ああ、期待してるぞ」

雄二と悠里が話していると、教室の後ろの扉が勢いよく開けられた。

「すみません、少し遅れちゃいましたっ(・ω<)ミ☆」

「早く座れ、このウジ虫野郎」

愛嬌たっぷりに放った言葉を一蹴されたのは、これまた去年までのクラスメート『吉井明久』だった。

「いきなり失礼な!……って雄二?何やってんのそんなところで?」

そこまで言われて、明久も雄二の存在に気がついたようだ。

「ん?さっき説明したばかりだろ。二度も言わせるな」

「あっ、ごめん。……ってそんなので騙される訳ないでしょ!僕を何だと思ってるんだ!」

「?バカだなぁ何を今さら。そんな馬鹿のひとつ覚えみたいに馬鹿なこと言ってないでさっさと席に着けバカ。」

「ナチュラルに4回もバカって言うなバカ雄二!」

「まあ、落ち着け明久。実はお前がそう言うと思って俺が先に聞いておいたんだ。感謝しろよ」

「それって僕が聞いて無いから結局意味ないよね!?―――ってあれ?何で悠里が此処に居るの?」

明久も疑問に思ったようだ。明久は|今の悠里でも《・・・・・・》中の下くらいの学力は持っていることを知っているので、てっきりFクラスには居ないものだと思っていたらしい。

「ああ、実は前日徹夜して衣装を作ってたら風邪引いちまって。」

「あはは、馬鹿だなぁ悠里は。そんなこと小学生でもしない肩の関節があり得ない方向にぃぃぃぃぃっ!!」

「鉛筆転がしてテスト受けた奴に言われたくねぇ!」

「何故それを!?それよりこれ以上やったら肩の稼働範囲が広がってしまうぅぅぅぅぅ!」

悠里が明久を私刑《リンチ》していると、前の扉が開けられて外から教員らしき男が入ってきた。

「えーと、ちょっと通してもらえますかね?」

「あ、はい。今退きます。」

「あべしっ!!」

明久を捨てて悠里は席に着いた。入ってきた男はどうやらこのクラスの担任のようだ。

「えー、おはようございます。二年Fクラス担任の福原慎です。よろしくお願いします」

先生は黒板に名前を書こうとして―――やめた。どうやらチョークすらろくに用意されてないらしい。

「皆さん全員に卓袱台座布団は支給されてますか?不備があれば申し出て下さい。」

このFクラスは机が無く、あるのは畳、卓袱台、座布団だけ。教室の隅には蜘蛛の巣があり、壁はひび割れが至るところに形成されている。

「先生、座布団に綿がほとんど入ってないんですけど」

「我慢して下さい」

「先生、窓が割れていてすきま風が寒いんですけど」

「我慢して下さい」

「……先生、卓袱台の足が折れてるんですけど」

「我慢して下さい」

「おいっ!!」

「ははは、冗談ですよ。木工ボンドがあるので自分で直して下さい」

「……」

どうやら新品との交換すら許されていないらしい。
年期が入った卓袱台に床に敷き詰められている古臭い畳も加わって、教室全体に一昔前の納屋のような独特の空気が漂っている。

「では、自己紹介でも始めましょう。廊下側の人からお願いします」

福原先生の指名を受け、生徒がひとり立ち上がり、自己紹介を始める。

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。今年一年よろしく頼むぞい」

木下秀吉。演劇部に入っており独特な言葉遣いを使う。声帯模写を得意とし演技も部内で頭ひとつ飛び抜けている為、『演劇部のホープ』とも呼ばれている。外観は少女のような姿をしているが、れっきとした男である。

「俺は橘悠里。秀吉と同じ演劇部所属で、趣味は人間観察」

橘悠里。外見は前話の通りだが、顔は整っていてどちらかといえば中性的。頭より先に体が動く典型的な体育会系であるが、何故か文化部に入っている。表立って活躍する秀吉に対し、影で何の役でもこなす様から『演劇部のジョーカー』と言われている。……らしい(本人非公認)

「…………土屋康太」

土屋康太。普段は寡黙で口数は極端に少ない。余り目立たない為、その実態を知る者は少ない。

「―――です。海外育ちで、日本語は読み書きは苦手です。趣味は……」

するとここで、男子ばかりのFクラスには珍しい女子生徒の声が聞こえてきた。

「趣味は、吉井明久を殴ることです☆」

「誰だ!?そんな嬉しそうに犯行予告を宣言しているのは!―――って島田さん?」

「はろはろ〜」

声の主は島田美波。これまた悠里の去年のクラスメートだった。Fクラスには知った顔ばかり集まっているようである。

「……そっか、そうだよね。やっぱり島田さんはFクラスだよね頭が割れるように痛いぃぃぃぃぃ!!」

「それはウチが馬鹿だとでも言いたいの!?」

「ぎゃぁー!!ギブ、ギブー!!」

「ウチは帰国子女だから、出題の日本語が読めなかっただけなんだからね!」

「わかった!わかったから!アイアンクローはやめてぇー!!」

「はいはい。そこの二人、静かにして―――」

バキィッ ガラガラガラ……

先生が注意の為に軽く叩いた教卓が、瞬間ゴミ屑と化した。

「え〜……替えを持ってきます。少し待っていて下さい」

気まずそうに告げると、先生は教室から出ていった。






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