The Golden Darkness

□one day in Yami
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「……なんでついて来るんだよ」

と思われたが、ヤミはリトの後をついて来ていた。

「お構い無く。私もこちらに用があるだけです」

「お構い無くって……さっきも言ったけど、部外者が堂々と歩いてい「おーい、リトーっ!」るの、は?」

リトが小姑の如くねちねちと言っていると、向こうからララが駆け寄ってきた。

「あっ、ヤミちゃん!学校に来てたんだね」

「はい。久方ぶりですね、プリンセス」

「うん。久し振りー」

「いや、それよりお前もこの状況にツッコめよ」

「え?何が?」

ララの発言を聞いて、やっぱり嘗て躊躇《ためら》いもなく不法侵入した奴では話にならんと頭を抱えるリト。そんなリトを他所にララはヤミに話しかける。

「ヤミちゃん、地球に残ることにしたんだね?」

「ええ。この星も気に入りましたし、それに―――」

ヤミはチラッとリトの方を見た後、再びララに視線を戻す。

「やることを見つけましたので」

「へぇ〜そっかぁ。それじゃあ今度、この町を案内してあげるよ!」

「楽しみにしています」

「うん。じゃあこれから授業だから、またね!」ガシッ

「おいララ。急に手を掴んで何をぉぉぉぉぉっ!」

ララはリトの手を掴み、リトの悲鳴によるドップラー効果を響かせながら颯爽と走って行ってしまった。

「……結城リト。私が手を下す前に過労死しそうですね」

流石のヤミも同情せざるを得なかった。

「むっ!ウヒョヒョ〜!金髪美少女発見〜!ワシの愛を受け止めウボハァッ!」

こんなところで呆けていても仕方がないと、ヤミは目的の場所へ歩き出す。さっき何か雑音が聞こえた気がしたが、それはきっと気のせいだろう。
そして目的地へ辿り着いたヤミは、入り口の扉をノックする。

『入っていいわよ』

「失礼します」

中から返事が返ってきたので、ヤミは一言声を掛けて扉を開ける。

「あら、貴女は……金色の闇?」

「お久し振りです。ドクターミカド」

訪れた場所は保健室。そこに居たのは彩南高校の養護教諭であり、宇宙にその名を知らぬ者は居ない程の名医でもある『御門《みかど》涼子《りょうこ》』だった。

「本当に久し振りね。前に大怪我をして家に駆け込んで来て以来かしら」

「その節はお世話になりました」

二人には以前からの面識がある。その時の話についてはまたの機会に語るとしよう。

「それで、今日はどうして地球《ここ》に?」

「暫くここで過ごすことにしたのでご挨拶にと。またお世話になると思うので」

お土産です、とヤミは常連のたい焼き屋のたい焼きが入った紙袋を渡す。

「あら、ありがとう。そうねぇ……確かに貴女の場合、定期健診をしておいた方が良いかもしれないし」

御門先生は貰った紙袋からたい焼きをつまむ。

「今度の日曜日に家に来なさいな。一応一通りの設備は用意してあるから」

「はい。わかりました」ジィィィ

たい焼きを一つ平らげ、御門先生は新たにもう一つ取り出す。

「それにしても美味しいわね、このたい焼き」

「私のお気に入りですから」ジィィィ

「……あらそう」

ヤミから物凄く凝視されて食べるに食べれない御門先生。

サッ(持っているたい焼きを右にずらす)

ジィィィ(顔は動かさずに目だけで後を追う)

サッ(今度は左にずらす)

ジィィィ(再び目だけが後を追う)

「……」

どうやら御門先生が持っているたい焼きが気になるらしい。

「……このたい焼き、少し量が多いわね。誰か食べてくれないかしら」

「……」パァァァ

「あっ、でも冷蔵庫に入れて明日食べればいいかしら」

「……」ズゥゥゥン

御門先生の言葉に、無表情ながらもあからさまな反応を見せるヤミ。

「ふふふ、冗談よ。貴女も食べる?」

「!?い、いえ。そういう訳には―――」

くぅ〜

「ッ!/////」

ヤミのお腹は正直だった。

「……頂きます」

ヤミは御門先生からたい焼きを一つ貰うとモキュモキュと食べ始めた。

(金色の闇ってこんなキャラだったかしら?前に会った時はもっと刺々しい感じだったけど……)

暫く見ない間に随分と印象が変わったな、と昔を振り替える御門先生。

「これじゃあ、どちらかと言うと『ヤミちゃん』って感じね」

クスクスと笑いながら言った御門先生の言葉を聞いて、ヤミの手が止まる。

「?どうかした?」

「いえ……貴女もプリンセスみたいなことを言うのだと思いまして」

「プリンセス?ああ、ララさんのことね。いつの間に仲良くなったの?」

「別にそんなつもりは……」

照れ隠しなのか、御門先生から目を逸らして再びたい焼きを食べ始めるヤミ。

「そういえば、さっきは流したけど何でこの星に暫く居ることにしたの?」

御門先生がヤミに尋ねる。

「大したことではありません。私的な用事です」

「ふ〜ん…………結城君が理由、かしら?」

御門先生の言葉にピクリと反応するヤミ。

「思った通りね。大方、婚約者候補からの暗殺依頼かしら?」

「……ええ。もっとも、その依頼は白紙に戻りましたが」

隠すことでもない、とヤミは素直に白状する。

「あら?それならどうしてまだ結城君を狙っているの?」

「……私は今まで依頼を失敗したことはありませんでした。だから今回も依頼を完遂する。それだけです」

「ふ〜ん。まっ、そういうことにしておいてあげるわ」

ヤミの返事を聞いた御門先生は満足したのか、ニヤニヤしながらそう答えた。

「……随分と長居してしまいましたね。今日はこの辺りで失礼します」

「はいはい。調子が悪くなったら何時でも来ていいわよ」

それでは、とヤミは頭を下げて保健室を後にした。




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