The Golden Darkness
□first contact
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桜も散り新緑が目立ち始めた初夏。そんな昼下がりに、金色の闇――以後"ヤミ"――は街をぶらつきながらターゲットを探していた。
「こうも人が多いと、歩くのも一苦労ですね」
暫く歩いて疲れたのか、休憩がてら近くのフェンスに座り込む。
(小腹がすいてきました)
すると、ヤミのお腹からくぅ〜っと可愛らしい音が鳴る。
「……と、とにかく、どこかで食事を取らなければ!」
いざ出発しようとフェンスから立ち上がる。するとその時、向こうから一人の少年が歩いてきた。
「あれは……」
少年の名は『結城リト』。宇宙を統べるデビルーク王の第一皇女『ララ・サタリン・デビルーク』の婚約者候補(?)にしてヤミの今回のターゲットである人物。しかし、ヤミが気になったのはそこではなく―――
(あの魚のようなもの、甘い匂いがします)
リトが持っているたい焼きだった。
(甘い匂いがしますし、菓子?いや、それならば何故魚の形を模しているのでしょうか。そもそも魚というのは地球の表面積のおよそ七割を占める水中に生息する、鱗《うろこ》、鰓《えら》、鰭《ひれ》を持つ生物の総称で―――)
「えぇっと、食べるか?これ」
じ〜っと見ているヤミにリトは持っていたたい焼きを差し出す。どうやらリトはヤミがたい焼きを欲しがっていると思ったらしい。
……実際その通りだが。
「……頂きます」
そう言うや否や、ヤミは受け取ったたい焼きを食べ始める。
(美味しい……)モキュモキュ
なにか小動物を彷彿とさせる擬音を発しながら一心不乱にたい焼きを食べるヤミ。それを見ていたリトが悶えているように見えるは、きっと気のせいだろう。
「ありがとうございました。ちょうど空腹だったもので」
食べ終えたヤミは改めてリトにお礼を言う。
「いや、口にあったのなら何よりだけど……」
「はい。少々変わった食べ物でしたが、実に美味でした」
宇宙人にとってたい焼きは珍しいものだったようだ。
「そ、そういえば、こんなところで何してたんだ?」
見知らぬ少女と話すのが少し気まずいのか、リトは話題を変える。
「人を探していました」
「人探し?よかったら俺も手伝おうか?この辺りは近所だからある程度把握してるけど。それにほら、まだたい焼きもあるし」
「…………」
「い、嫌ならいいんだっ、別に」
無言を否定と取ったのか焦り出すリト。しかし実際は―――
(そういえば、どうしてターゲットがこんな近くに?私に気付かせずに接近するとは……この男、なかなかのやり手のようですね)
―――こんなことを考えていた。食べ物に釣られただけじゃね?というツッコミはNGで。
「……わかりました」
「へ?」
ヤミの返答に気の抜けたような返事をするリト。
「私自身、此処の地理には詳しくないので。協力に感謝します」
「あっ、いや、とんでもない」
(このまま戦闘するよりもう少し探った方が賢明ですね。そう、決して彼の手に残っているたい焼きに釣られたわけではありません。釣られた訳ではないのです)
こうしてヤミはリトと共に人探し(という名の食べ歩き)に出たのだった。
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