The Golden Darkness

□first contact
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「……おい、何処に行く気なんだ?」

ヤミに捕まり十分近く宙吊りになっていたリトが痺れを切らして話しかける。

「雇い主に依頼内容の真偽を確かめに行きます。情報を偽っている可能性があるので」

「(もしかしてさっきのことが口に出てたのか?それなら、契約違反とかで依頼がなくなって助かるかも―――)」

「貴方を始末するのはその後《あと》です」

「(全然ピンチを脱出出来てねぇぇぇ!)」

猶予が生まれただけで、さっきから全く状況が好転していなかった。

「……ッ!あれは―――」

辺りを見回していたヤミは、何かを見つけたのか地上へ急降下する。

「ど、どうしたんだ!?何かあったのか!?」

ヤミの突然の行動に動揺を隠せないリト。そして、その降り立った先でリトが見たものは―――

「ってたい焼きかよ!」

たい焼き屋の屋台だった。

「たい焼き6つ下さい」

「へ、へい……」

空からの珍客に度肝を抜かれながらも、きちんと客商売をする店主。

「お、おい。お金持ってるのか?」

リトが不安そうにヤミに尋ねる。

「……代金は彼が払います」

「ちっくしょーッ!」

街道の中心でこの世の不条理を叫ぶリトであった。

「へ、へいっ、おまち」

「ありがとうございます」

ヤミはお礼を言うと、さっそく袋からたい焼きを出して食べ始める。

「……あはひゃもはへまふは?」モキュモキュ

「いや、口の中なくなってから喋れよ。何言ってるか分かんねーし」

「(ゴックン)失礼。貴方も食べますか?」

「食べるっていっても……」

リトは現在進行形でヤミに拘束されているため、両手が使えないのだ。

「仕方ありませんね。では、口を開けて下さい」

「え?それって―――」

「『あーん』」

「ッ!?」

そう言いながら、ヤミはリトにたい焼きを近づける。

「ち、ちょっと待てって!」

「?何か間違っていましたか?この星では"女性が男性に食べさせてあげる際にはこう言うものだ"と本に書いてあったのですが」

「いや、それは別に間違っていないっていうか、なんというか、ええっと、そのー……」

「問題ないのでしたら、『あーん』」

「いや!だから!」

殺し屋に拘束されているこの状況でなければ呪詛がとんで来そうなほど羨ましい展開である。

「いや、その、あの……」

「…………」

「わかった!食べる!食べるから!後ろで刃物をちらつかせるのはやめてくれ!」

ヤミに刃物で脅され漸く承諾をするリト。
そして覚悟を決めたのかリトは口を開き、ヤミの手によってたい焼きがリトの口に収まろうとした、その時―――

「リト殿ぉーーー!避けて下さい!」

その声にヤミが上を見上げると、そこには剣士と思《おぼ》しき男性が西洋剣を振りかざしながら斬りかかろうとしていた。

「ッ!ちっ!」

ヤミは咄嗟に躱したが、不意を突かれたせいでリトの拘束を解いてしまった。

「大丈夫かリト殿?」

「"大丈夫か"じゃねぇよ!危ないだろザスティン!大体あの状況で避けろとか無茶振りすぎだろ!」

「そうは言われても……実際に避けてみせたではないか」

「くっ、今はこの回避能力が恨めしい……」

リトと斬りかかってきた男『ザスティン』が言い争っている間に、ヤミは体制を立て直す。

「やられました。まさか誘い込まれていたとは……中々の作戦だったと誉めて置きましょう」

「いやいや、単にたい焼きの匂いに誘われて来ただけなんじゃ―――」

「……ふん。宇宙に名高き金色の闇を相手にするには、これでも役不足なくらいだ」

「お前も話を合わせるなよ!」

ボケが二人になったことにより突っ込みに忙しくなるリト。

「ですが、何人たりとも私の邪魔はさせません」

ヤミは髪を再び無数の刃に変身させ、ザスティンとリトに向かって走り出す。

「ここは私が引き受ける!リト殿は今の内に!」

ザスティンはそう叫びながら、向かってくる刃を剣で打ち落とす。

「わ、わかった。頼んだぞ!」

「お任せあれ!」

そして全て打ち落としたところでザスティンはヤミに攻撃を仕掛ける。

「くッ!」

先程とは打って変わり、ザスティンの斬撃をいなし躱していくヤミ。

「はあぁぁぁッ!」

「ッ!」

ザスティンが渾身の力で放った一撃を、ヤミは変身させた刃でガードしながら後ろに飛び衝撃を殺す。

――変身《トランス》・龍頭《ドラゴンヘッド》――

後方に着地したヤミはすかさず髪の毛を幾つもの龍の頭に変身させ、さっきの大振りで隙のできたザスティンに叩き込む。

「ッ!?ぐッ!」

ザスティンはそれをまともに食らい、動きを止める。

「……流石は噂に聞く金色の闇。その力は底が知れないな」

「それはどうも」

攻撃を食らったのにも関わらず、大きなダメージを受けた様子のないザスティン。ヤミは一切の油断も無くザスティンを見詰める。

「だが、残念だったな。君では私に勝てない」

「?何を根拠に」

ヤミは不適な笑みを浮かべるザスティンに問い掛ける。

「何故なら!」

そう叫び、ザスティンはヤミの拘束を振り払って思い切り横に跳ぶ。

「君はこの星『地球』を知らないからだ!」



ファァァァァンッ!



ザスティンのいた場所の後方から電車が物凄い勢いでやって来た。そう、ザスティンはヤミと戦いながら線路の上まで誘い込んでいたのだ。

「はははははっ!あの日の私と同じ目に会うがいい!」

「……」

ザスティンを横目で見たヤミは膝を曲げて身を屈める。

――変身《トランス》・|天使の翼《エンゼルウィング》――

背中に翼を出現させたヤミはジャンプを利用して上空へ回避した。

「何だと!?」

相手が空を飛んで回避したのを見て、驚愕の表情を浮かべるザスティン。

「油断大敵、ですよ」

上空で浮遊しているヤミがザスティンの左方を指さす。

「何?」



ファァァァァンッ!



ザスティンがヤミの指した方向へ振り向くと、下り電車がすぐそこまで迫っていた。

「な、何故こちらにも電車がぁーッ!?」

そのまま電車に轢かれたザスティンは、キラーンという擬音と共に遥か空の彼方へと飛んでいった。

「"策士、策に溺れる"。精々精進することですね」

そしてヤミはそのまま、逃げたリトを追うべく空を駆け抜けた。






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