読物

□Tell Your World
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日差しが柔らかくなってきたことには気づいていた。

でもその空気を感じることに興味は見いだせなかった。


いじめがあった訳ではない。
嫌いな奴がいる訳ではない。
クラスメイトは皆いい奴らで大好きだ。


だけど・・・


もっと好きで好きで好きで好きで、堪らなく大好きな人ができた。

「せんせ・・」

好きで好きで堪らないこの気持ちが自分の中で暴れだす。
『あたし』という枠に納まりきれなくなってきた。

だから学校へ行けなくなってしまったんだ。
嫌われたくなくて・・・

コツッ



コツッコツッ


何かが窓にあたる音がする。
日替わりでやってくるクラスメイトが来るにはまだ時間が早い。
皆まだ授業中のはずだ。
あたしは薄いカーテンの引いてある窓に近づいた。
家の前にいた人物を見て心臓がばくんと跳ね上がる。
早鐘を打ち、鷲掴まれたみたいに痛い。

「銀八先生!」

先生は周囲を見回し窓にぶつける為の手ごろなおおきさの小石を拾・・・

て、手ごろな大きさの石、って、岩!?ちょ、待っ、でかくね!?

何?投げんの?きれいなフォーム!言ってる場合か!!

「うちを解体する気かァァァァ!!」

思わず叫びながら窓をすぱぁぁぁぁんと開け放つ。

「よぉ、あさぎ。いるんじゃねーか。」

先生はそう言うとニヤリと笑った。
低い声が鼓膜を優しく震わす。
景色がじわりと滲んだ。

「話したいことがあんだけど。下りて来いよ。」



興味のなかった暖かな空気が、それでも優しくあたしを包む。
先生の大きな背中を見ながら、川沿いの道まで歩いてきた。
先生はくるりとあたしを振り返ると「一服。」と煙草を吸う仕草をした。
頷くと先生はまだ丈の短い草の上に腰を下ろした。
あたしも先生の隣、二人分くらい空けて腰を下ろす。

「何お前花粉症?」
「え?」
「目の周り真っ赤。」

煙草を燻らせながらろくにこちらも見ずにそう言った。
緊張と気持ちの取り扱いに困り、自然と涙が滲んできてしまっていたせいだ。

「まぁ・・アレルギーみたいなもんです。」
「ふーん・・・」

自分から聞いておきながら、大して興味もなさげに先生は川の流れをただ見ている。

「先生。何かあたしに話あったんじゃないんですか?」

沈黙に耐えられずそう切り出すと、「あぁ」と先生は携帯灰皿に煙草を捩じ込んだ。

「あさぎさぁ・・もしかして、、俺のこと好きなの?」
「・・・・・・・・・」

フリーズ。
あまりに核心を突きすぎた発言に頬を染めることも忘れ、ただただ固まって先生をじっと見つめてしまった。

「いやっ、あの、ち、違うならいいんだけどー。視線とか態度とか?そーなのかなー?ってち、ちょっと思ったってゆーかっ。やっぱねー、き、気のせ・・・・っっ!!////」

どうすればいいのかくるくる頭ん中で考えてたら、体が勝手に先生に抱きついていた。
勢いであたしに押し倒され、組み敷かれたような態勢になり、先生は真っ赤になっていた。

「好き、なのっ!先生がっ。でもどうしていいかっ、わかんなくて、皆に、先生にっ、き、嫌われたくないっ。」

圧縮された気持ちが解凍されて何倍にも膨れ上がって、『あたし』を突き破って外へ。
ぽたぽたと流れ落ちる涙が先生の頬を濡らす。
先生は体を起こすとパニックになってるあたしを膝に乗せ、ぎゅっと抱きしめ背中を撫でた。

「あーよかった。違ったらどーしようかと思った。」

ほっとしたのか、先生はあたしの耳元に顔を埋めた。
先生のふわふわの柔らかい銀髪が春風と一緒になって頬を擽る。

「学校来いよ。あさぎがいないのいいかげんキツイんだわ、俺。」
「・・・・ん。」
「お前の伝えたいこととか、届けたい気持ちとかそーゆーの全部届いてるから。俺にもクラスの奴らにも。」
「・・・・うん。」
「思ってること言っていいんだ。そんなことで誰もあさぎを嫌ったりしねーよ。な?」
「・・・うん。うん。」

先生は耳元から離した顔をあたしの顔に寄せた。
唇が、重なる。

「あ、でもこーゆーのは学校ではナシな。あくまで学校では先生と生徒。じゃねーとPTAとか色々煩ぇからな。」

それは先生のプライベートはあたしにくれるという約束の言葉。

わしゃわしゃと自分の頭を掻く先生を見てあたしは久しぶりに笑った。



※※※※※※


あとがき

ありがとうございました。

今回の話のタイトルは、年末Google ChromeのCMソングになった初音ミクの曲から。
この曲に刺激されてがーっと書き上げたものです。

あーぁな出来になってないことを願うばかりですね←

ではまた。

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