読物

□彼と彼女の事情
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「勝負しろっ!総悟ォォォ!!」
「またですかィ?」

いつだって 彼らの事情は 同じなんだ


昼少し前。
土方は、昼食を摂るために雑務をしていた自室を出た。
障子を開け、部屋を出るとすぐに中庭をこちらへ向かってくる少女が目に入った。
その少女は、ヨレヨレというかボッロボロというか・・とにかく汚ェ様子でこちらへと近づいてきた。

「あさぎ・・またかよ。」
「煩いですよ。」

その少女、あさぎはキッと土方を鋭く睨みつけた。
とにかく腕が立つってことで局長がゴリ推ししたため、女だが特例で真選組に入ったんだが、血の気が多いのが玉に瑕。
今日も鍛練用に着用している道着は所々破け、痣や血が滲んでいるのが見て取れる。

「ホント懲りねぇなぁ。」

土方は自分の横を通り過ぎようとするあさぎの腕を溜息と共に掴んだ。

「痛っ!何するんですかっ!!」
「手当だよ。」

副長命令だとばかりに自室の障子を開け、中にあさぎを放り込んだ。



「まったく・・呆れてモノも言えねぇな。」

手当しながら土方は本当に呆れ顔をした。

「ま、総悟も総悟だがな。女相手にこんな無茶苦茶して・・っつーかするなアイツなら。サディスティック星の王子様だからな。」
「手加減されたら鍛練にならないからいいんですよ、これで。」

傷の消毒に顔を歪めながら、土方の言葉にあさぎが答える。
剣術では沖田が真選組随一だと知って、あさぎは自主トレを積んでは沖田に勝負を吹っかけているのだ。

「なんでそこまでして総悟に勝ちたいんだよ?」

土方の質問に、あさぎは膝の上に置いていた両手でぎゅっと拳を握る。

「肩を並べていたい。総悟は、何かっつーとすぐ半歩前に出るから・・あたしだって総悟の一人や二人護れるってこと証明してやりたいんです。」

土方は思わず目をぱちくりと瞬かせた。
手当の手が止まる。

「早くして下さい、土方さん。この後、指立て1000回の罰ゲームが待ってるんですから。」
「指立て!?1000回!?バカだろお前ら!!」
「誰がバカか!てか、土方さんもご一緒にいかがです?」

付き合いきれない。
「ほどほどにな」と包帯を巻いた腕をバシッと叩いてやると、「痛ェェェ!!」と涙目で飛び上がり、「土方さんのバカァァ!!」との捨て台詞と共に叩き割りそうな勢いで障子を閉めて出て行った。

「ったく、もう一人のバカにも一言言っとかねーと駄目か・・」

土方は昼食を摂る為に再び自室を出た。



昼食を終え戻ってくると沖田が中庭の木の下で惰眠を貪っていた。
人を小馬鹿にしたような例のアイマスクが腹立たしい。

「総悟。」
「いやだなァ土方さん。今日は日曜日ですぜィ。」

名前を呼ぶとオートでこの言葉が返ってくる。

「今日は金曜日だァァァァ!!てんめぇ、仕事サボるのも大概にしろォォォ!!」

土方に怒られるのもいつものこと。アイマスクを取り、面倒くさそうに土方を見上げた。

「何ですかィ?何か言いたいことがあったんじゃねェんですかィ?」

土方は、この少年のこういう妙に勘の鋭いところが気に入っていた。
話が早い。

「てめぇ、ちょっとやり過ぎじゃねぇか?」

その一言で沖田はあさぎのことを言っていると気づいたようだった。

「傷残っちまったらどうするつもりなんだよ。」
「土方さんには係わりのねェことでさァ。」

喉奥から絞り出すような声だった。それでも土方は続ける。

「係わりはあんだろうがよ。俺は副長だ。隊士があんな傷を負うの黙って見てる訳にはいかねぇ。」
「あさぎの為でも、ですかィ?」
「あんなに傷つけてあさぎの為だってぇのか?」

思わず感情が昂ぶり、声を荒げた。
それに引きずられるように沖田の目の色が変わる。

「手加減しろってんですかィ?俺にあいつを侮辱しろって?」
「手加減と侮辱は違うだろーが!!」
「どこが違うんです?あさぎがどのくらい鍛練積んでるか土方さんだって知ってるでしょ?本気の人間相手に手加減なんて侮辱以外の何物でもねェや。」

沖田の拳がギリギリと音を立てるほど強く握られているのが土方にも分かった。

「あいつがココにいる限り、攘夷志士共と渡り合わなきゃならねェんだ。あいつらは手加減なんかしやせんぜィ。だったら、少しでも強くなれるように相手になってやるしかねェじゃねェですかィ。」
「護ってやるっつー選択肢は?」

意地が悪いとは思ったが、マジになっている沖田なんてそうそう見れるものではないので、土方はそんな神経を逆撫でるような質問をした。

「あいつがそれを望んでねェことぐらい土方さんだって分かってんでしょ?意地が悪ィや。」

やっぱりこの少年は勘がいい。
土方は薄く笑みを浮かべた。

「存外、バカじゃねぇな。総悟。」



土方に見つかったため昼寝の場所を変更した沖田は、道場脇の壁に寄りかかり熟睡していた。

「そう・・・総・・総悟!!」

ノンレムの底から無理矢理浮上させられた。

「なんでィ・・・あさぎ?」
「終わったよ!指立て1000回。」
「俺ァもう勝負はしねェ。」

眠い目を擦りながらそう告げた。

「うん・・ごめんね。」

いやに物わかりがいいので思わずきょとんとしてしまう。

「さっきの中庭でのやりとり聞いてたんだ。総悟にキツイ思いさせちゃったね。」

いつもとは違って妙にしおらしい。
ただそれだけなのに変な気分だ。
こういうのは意識し始めると止まらないものだから厄介だ。

「いろいろ・・あの・・・分かっててくれてありがと。」
「別に・・」

それだけ言うのが精一杯だった。
色素の薄い茶色い目を潤ませて上目使いとか、頬を薄紅色に染めるとか、ぷくっと柔らかそうな唇で一生懸命言葉を紡ぐとか、アレ?コイツこんな可愛かったっけ?とかぐるぐるしていた。
しかも傷ついた体が妙に沖田のツボをついてきた。

「勝負はもう挑まないけど、鍛練にはこれからも付き合ってね。」

満面の笑顔をあさぎは沖田に向けた。

「えー面倒くせェや・・つーか、その傷の手当誰がやったんでィ?」

随分とキッチリ巻かれた包帯が気になって尋ねる。

「土方さんだよ。うまいよねー。慣れてんだなぁ。」

と感心しきりのあさぎ。



「ふーん・・鍛練(おしおき)ねェ・・・悪くねェな。」




彼は彼女のために

彼女は彼のために

※※※※※※

あとがき

初公開作品読んで頂きありがとうございました。
随分前に下書きはあったものを今回公開するにあたり、少し手直ししました。
が、グダグダになってしまった感は否めません。
これからも精進してゆくのでよろしくお願いします。

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