短編
□誕生日
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カタカタカタカタカタカタ
ここは臨也の部屋。
波江は30分程前に帰ったので今は、名無しと臨也の二人っきり。
カタカタカタカタ
部屋にはパソコンのキーボードを叩く音が聞こえるだけ。
臨也はパソコンとにらめっこをしていて、相当話し掛けづらいので名無しは黙って見ているだけ。
今日、私の誕生日なのに……、臨也、忘れてるのかな……。
『はぁ』と溜め息を漏らすと、急に悲しくなってきて泣きそうになる。
私の誕生日を忘れてるんだとしたら、臨也は私のこと、好き……じゃないのかな………。
暗いことを考えてしまって、さっきよりも泣きそうになってくる。
私は、これ以上この部屋にいると、また暗いことを考えてしまう、と判断して自分の部屋に行くことにした。
「臨也、私、今日は眠いから、もう寝るね。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ…。」
これが、今日初めての会話。
名無しはこの短い会話の後、小走りで自分の部屋に行き、ベッドの上で声を押し殺して泣いた。
何時間も泣いたので疲れてそのまま眠りについた。
「ん゛っ。」
朝起きた時、左手に違和感があった。何かが指にはまっているような……、そんな違和感だった。
名無しはその正体を確かめるために、左手を顔の前にかざして見ると―――
名無しは飛び起きてリビングへ行った。
すると、臨也はもうすでに起きていて、コーヒーを飲みながら朝のテレビ番組を見ていた。
すると、私の足音に気付いたのかこっちを見る臨也。
「おはよう、名無し。」
「おっ、おは、おはよう…ってそんなことより、臨也、これっ、これ…なに…?」
驚きのあまり声が震えてしまう。
「それ?俺も付けてるよ、婚約指輪。」
言葉のキャッチボールが出来てないような気もしたが、気のせいということにしておく。
『ほら』と言って名無しの前に左手を出して、見せる臨也。自分の指にはめられている指輪と同じものだ。
「あっ、そう言えばまだ結婚の返事聞いてなかったな。」
「けっ、けけけけ、結婚っ!?」
「そ、俺と結婚してくれる? ていうか、するに決まってるよね。もっとも、拒否権は無いけど、ね。」
「ふぇ…うん、うん、大好き臨也。これからもよろしくねっ。」
泣きながら何度もこくこくと頷き、プロポーズの返事をする名無し。
そんな名無しを優しく抱きしめる臨也。
「俺も大好きだよ。いや、『愛してる』かな。人間よりも、ずっと愛してるよ。ちょっと遅くなったけどHappy Birthday名無し。」
「ありがとう。臨也! 私も臨也のこと愛してるよ。」
そして二人は将来を誓い合い、口付けを交わした。
人生で一番嬉しい誕生日プレゼントを私は貰った。