約束のとき

□刻まれた意識
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あの月夜からしばらく経った。
それからはジャーファルを避けなくなったし、まだぎこちないけれど会話もしている。
ほぼ無意識で避けていたのを、今度は適度に意識して近づく。
なんだか変な気分だが、悪い気はしなかった。

最近は書庫の帰りにばったり会うことが多く、少しだけ立ち話をすることもあるのだ。



それと、一つ聞いた話がある。
情報源はシンドバッドだ。



近頃ジャーファルがおかしい。

にっこり微笑んで「こちらの仕事は私にお任せください。シン、少し休まれてはどうですか」などと言う。
少し前までは鬼のような形相で仕事、仕事と俺に迫っていたのに。
まあ、それは俺に非があるのだが…。

とにかく、ジャーファルが恐ろしい。
何を考えているのか全くわからない。

セフィリア、君は何か知っているか?



「わからない」とか「知っているか」なんて聞きながら、シンドバッドは含み笑いをするのだ。
きっと、彼が聞きたいのはあの夜の件だ。
しかしその様子だと自分で何か察しているのではないか。
あくまで私の口から言わせたいということなのだろう。

言葉を濁してその場を立ち去ったが、後日シャルルカンにも同じことを聞かれた。
シンドバッドと全く同じ表情で。
二度目だったせいもあり、さほど動揺しなかった私は「知らない」と足早に逃げたけれど。



私だって、一体何なのか、どうしたら良いのか、聞きたいくらいなのに。

ジャーファルのこと。
彼が言う、私の中の答え。
その答えを導いた後のことも。



先日から、ずっと同じことばかり考えている。

なかなか寝付けない夜もあり、気が付けば朝だったなんてことがあった。
まるで行き止まりから出る方法を失ってしまったみたいだ。

気を抜くとすぐに彼のことを考えてしまう。
一般論としては、それは「恋わずらい」と言うのだろうけれど。

私にはこれが恋なのだ、と言い切れる自信などなかった。



本当に、何もかもがぼやけて曖昧だから。
掴もうと手を伸ばしても、それは空を切るだけ。

ああ。
とても、厄介だ。



少し疲れて、うつむいて目を閉じた。
しばらく無心になる。

私はどうしたら良いのか。
ここは、誰かに相談するのが良さそうに思える。


決めた。


ピスティとヤムライハ。
彼女たちに聞いてもらおう。
話すことで整理がつくものもあるだろうし。

自分の、そういうことについて相談するのは気恥ずかしいけれど。



「答え」を見つけて欲しいと、私に言った彼の顔が忘れられないのだ。
切迫感を抑えて、今にも飛び出しそうな感情を制しているような瞳。
一変して涼しげな表情は、私に内面を悟らせない。


この人は何を思っているのだろう。


そうして、私はあの時意識したのだ。
彼に歩み寄りたいと感じた、自分を。





 

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