約束のとき

□南国の楽園
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まぶたに刺すような刺激を感じて、手で遮りながら目を開く。

眩しい。
それから、少し暑い。



ゆっくりと身を起こし、ぼんやりした頭で状況を把握しようとして。

我に返った。

イヴァリスは、父は。


どれだけの時間が経ったのかはわからないが、私にとってはつい先ほどの出来事だ。

王宮から国が瓦解してゆく様を見て、父と話し、そして転移魔法を使われた。
父は言葉通り、私をシンドリアという国に送ったのだ。

まずは国王にお目にかかり、状況を知りたい。
そこまで考えて、気付く。

私の国は、世界とは隔絶されているようなものだ。
外の世界から来る者は多くない。
そのような所なのだ、きっと滅んだとしても周辺国にすら伝わらないだろう。

情報を得る術がなく、気持ちがこの上なく沈みそうになる。


しかし、シンドリア国王のもとに行くことが第一の目標だ。
私は納得しきれなかったが、父の言い付けでもある。


気を取り直して、立ち上がる。

どうやらここは、森の中のようだ。
イヴァリスとは全く違う植物が生えていて、極彩色の花などは見ているだけで目が痛くなりそう。

あまり深い森ではなく、少し離れた所に沢山の建物が見える。
その方角を目指し、私は歩き出した。



街の中心だろうか、やけに賑わっている通りがあった。
人気の少ない路地から、思い切って飛び出す。

ぶわっと、熱気を感じた。

ざわざわと騒がしい空気だが、不快ではない。
活気があって、皆とても生き生きとしている。

物珍しさにキョロキョロと忙しなく視線をさ迷わせていると、道の脇から声がかかった。


「そこのお嬢ちゃん、この髪飾りをどうぞ!きっと似合うよ!」


そう言って繊細な装飾の飾りを差し出したのは、気さくそうな男性だった。
彼はとても人の良い笑顔を浮かべている。

しかし、どうぞと言ってもそれは売り物だろう。


「いえ、私、お金を持っていないので…」


申し訳ないが断ろう。
頭を下げて詫びると、男性は大急ぎで否定した。


「違う、違う!金は取らないよ。お嬢ちゃん、旅行で来たんだろ?これはほんの歓迎の印だ、遠慮しないで持って行ってくれ!」


にかっ。
そういう音が聞こえそうなほど相好を崩す彼に、笑い返す。


「ありがとう、ございます」


受け取って、早速髪につける。
嬉しそうな顔で似合うと言ってくれた男性を見て、ふと父を思い出した。

そうだ。
早く、シンドリア国王に会わなくては。


「あの、すみません。王宮って…あの建物…です、よね?」


男性に質問しながら周辺を見渡すと、ちょうどこの通りから真っ直ぐ上に、豪華な宮殿が見えた。
そういうわけで、言葉が所々途切れてしまった。


「ああ、そうだよ!我らがシンドバッド王がいらっしゃる所さ」


当然だと言わんばかりに頷く男性。


「観光かい?」


このシンドリアでは王宮に観光目的で行くのだろうか。

そう思ったけれど、一般の者はそう簡単には立ち入れないらしい。
近くまで行ってみると言い、髪飾りのお礼もしてから王宮へ向かう。


この国がシンドリアという確証も得たし、国王の名前がシンドバッドということもわかった。

私は他国の者だから、立ち入りを許可して頂くのは大変そうだ。
内心で悩みながら坂道を登る。



それとは反対に、足取りには迷いがなかった。





 

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