短編

□日常的な
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「しーたん。暇だよ〜、構って〜」


楽しそうなのか、本当に退屈なのか。
よくわからないテンションでこの男はやってきた。
何を考えているのか謎だから、推測も全くの無意味。

『やだよ、私忙しいもん』


なんたって今は、連休の課題を消化するので精一杯なのだ。


「だってそれ、提出は2日後じゃん〜」


うわお、さりげなく心を読まれた。


『ラストスパートが辛いことは、この私が誰よりも理解してるから』


夏休みの課題だって、3日で仕上げたことがあるが、あれはきつい。
終わった後の消耗が半端ないのだ。


「え〜?結局いつもと同じようになると思うけど」


わざとらしく首を傾げる残夏。

いかん、ちょっとイラッとしてしまった。

残夏は無視だ。
課題に集中しよう。

何も答えずに、視線を手元のテキストに移した。

でも、見られているからか集中しきれない。
問題を読んでも内容は入って来なかった。


それでも意識を反らそうと頑張って、3回ほど繰り返した時。

ふと影が差した。

まだ諦めないのか。
ため息を吐きたくなったが、こらえた。
文句のひとつでも言ってやろう。


『あのねぇ、残夏さ、ん…』


そう言いながら顔を上げると、言葉をさえぎられた。

というより、ふさがれてしまっている。

触れているところ全てで、胸がくすぐったくなるような柔らかさを感じて。
照れるよりも、びっくりしていた。
その上でしっかり感触を確かめる自分がいて。


恥ずかしい。

後で墓穴にでも埋まりたいと思う。

ずいぶん長く感じられたキスは、残夏が名残惜しそうに離れることで終わった。


「ね?課題はラストスパートで終わらせるしかなさそうでしょ」


相変わらず感情の読めない表情をした彼が、ごく近い距離でささやく。
その瞳だけは、いつもと違って熱っぽかった。


『手段が姑息すぎる…』


ムッとしてやっと文句を突き付けると、たいそう楽しそうに笑われた。


「ふふふ〜。そうでもしないと、しーたんってば構ってくれないし〜」


そう言って、残夏はまた距離を縮めて来る。
細められた目に私が映りこんでいるのを見ながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。


今度のキスは、さっきよりも長くて、甘かった。




 

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