Neptune

□序章
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昔々あるところに、ひとりの少女がおりました。

彼女の名前は白刃。
長い銀の髪と、青い瞳を持った可憐な少女でした。
その心根は真面目で純朴、善良な人柄はひとを魅了してやみませんでした。



しかし、ある時を境に彼女はひとびとから拒絶され、住まいを追われます。

彼女の持つ秘密が明らかになったこと、それが一番の原因でした。
頑なに守られてきた秘密、それは少女の素性でした。

なんと、彼女の父親は海を統べる神だったのです。
母親は神に仕える巫女でした。

そう、彼女は半神です。
父親ゆずりの力はとても強大でした。
ですから、何があっても使わないようにしていました。



しかし、事件は起きました。

ある日彼女の住む村で大洪水がありました。
村人は幸い近くの高台に避難しましたが、ひとりの母親とその子供が逃げ遅れてしまいます。
泣き出すわが子をなだめ、母親は必死で水から逃れます。

ですが、無情にも自然の猛威は親子を呑み込もうと襲い掛かりました。


もう手遅れだ、と村人たちは諦めました。


その時でした。


銀色の髪の少女が、親子をかばうように腕を広げ、立ち塞がったのです。
すると、それまで村を破壊し尽くすようにうねっていた水が、ぱったりと消えてなくなりました。

村人たちは自らの目を疑いました。
それでも、洪水がまばたきをする間に消失した事実は依然として彼らの目の前に横たわっています。

先ほど逃げ遅れていた親子が、少女に問いかけました。
あなたが助けてくれたのですか、と。

少女は頷きます。
そうです、私があの波をおさめましたと、そう言いました。

その言葉に、母親は感謝を表し、何度もお礼を告げました。

少女は助かって良かったと言い、微笑みました。



彼女はふと、高台を見上げました。

そして彼女は見てしまいます、自らに向けられる目がまぎれもない恐怖に染まっているところを。

しかし彼女は後悔しませんでした。

自分の保身の為に助けられる命を見捨てることは、どうしても出来なかったからです。
だからといって、村人たちの様子を咎めることもありませんでした。

仕方のないことだと思い、一切の言葉も残さず、その場を後にしました。



それから数ヶ月経ち、村はなんとか復興を遂げます。

しかしそこには、あの少女の姿は見あたりませんでした。
代わりに、ひっそりと語られるひとつの噂がありました。



銀髪に青い瞳の乙女は、村を崩壊させる大洪水を呼んだ妖である、と。



それが、神の娘でありながら妖とされた少女にまつわる、ただひとつの伝承となりました。



 

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