桜舞う世界で
「すっごいキレイ!」
「ホント、すごいな」
「月で見たのとおんなじくらいキレイだね!」
「そうだな」
満開に花をつける桜の木を見上げて寄り添う二人の間を、ふわっと風が吹き抜けていく。
春風に桜の木はさわさわと音を立てて花びらを舞い散らせた。
頭上から緩やかな軌跡を描きながら落ちてくる花びらにキラは手を差し伸べる。
その様子を黙って見守るアスランの瞳は優しげに細められていて、愛おしいと物語っていた。
「アスラン見てっ!見事キャッチしたよ〜!」
くるりと振り返ったキラはアスランの傍に駆け寄って、手のひらをそっと開いて見せた。
そこには薄紅に色づく一枚の花びら。
せっかく咲き誇っても、簡単にその花びらを散らせる桜にアスランが思いを馳せれば、記憶の彼方にいつも在る桜と幼なじみの姿が蘇る。
二人を繋ぐ桜の思い出は切なさも愛しさも含んでいたけれど、忘れられない大事な宝物だった。
「キラ...」
花びらの乗る手を取り、アスランは桜の花びらの上から口づける。
まるで姫に忠誠を誓う騎士のように。
「...っ!?...アスランっ!??」
羞恥に頬を染めるキラの手を離さないまま、視線だけを向けて言葉を紡ぐ。
「俺はキラと一緒にこの先も桜が見たい...、だからずっと傍に居てくれるか?」
「なっ...なにそれ、そんなこと言われたら...泣きそうになるじゃんか」
実際、キラの瞳はうるうると今にも涙が零れそうだった。
「キラの泣いた顔も好きだよ?笑った顔はもっと好きだけど」
「...バカ」
「キラ、俺の傍に居て欲しい」
「...うん、一緒に居よ」
「愛してる」
――もう二度と、君を置き去りにはしない.......。
end.
up@2009.4.8