桜夢見し
淡い薄紅の花が大木を彩る見事なまでの桜の並木道を、少年が二人連れ立って歩いていく。
――ああ、なんて懐かしい光景だろう。
でも、この先に待ち受ける未来を僕は知っているから...。
切なくも苦い気持ちになる。
――どうして、こんな夢を見るのだろう...今更。
そんな僕の葛藤を余所に幼き日のアスランが懐から機械鳥を取り出し、目の前に佇む涙を必死に堪えている「僕」へと手渡した。
(本当に戦争になるなんてことはないよ)
一語一句、君の言葉を鮮明に覚えている。
(キラもそのうち、プラントに来るんだろ?)
――あの頃、僕がもしプラントに行っていたら...、アスランとは戦わずに済んだ?
もしも、なんて考えるだけ無駄だと分かっているけれど。
過去は変えられないし、そうあるべき運命だったのなら僕はそれを受け入れるしかない。
――だけど時々、思うんだ。
ずっと、あのまま...。
桜の幻想の中に居られたなら......。
『キラ』
ふいに、アスランの声が頭に響く。
あの頃より大人びた、大好きな君の声。
『キーラ、起きて?』
瞼に優しい口づけが降りてきて、僕は夢から目覚めた。
「......アス、ラン」
懐かしい夢だった。
戦時中、幾度も邂逅した切なさを伴うけれど、優しい思い出...。
僕は両腕を伸ばし、アスランに抱きついた。
不安定な体勢なのにアスランは僕をしっかり抱きしめ返してくれる。
「キラ?どうした?」
「夢、みたんだ」
「...どんな夢?」
「桜の...、アスランと別れる時に見た、桜の夢...」
「...懐かしいな」
「ぅん...」
いまにも泣いてしまいそうで顔を俯けていたら、そっとアスランが耳元で囁いた。
「キラ...桜、見に行こうか」
「...え、ほんと?」
「新しい思い出作りに、な」
「...っ、うんっ!」
嬉しくて、ぎゅーっとしがみつくと彼は苦笑した。
――あの頃見た、桜も決して忘れたりはしないけれど...。
もう一度、二人で作ろうね。
幸せな桜の思い出を――。
end.
up@2008.3.30